だけど、現実の男子には関わりたくない、という思いもむなしく、数日後、私は生徒玄関口の前で再び八乙女くんから声をかけられた。

「おはよう、若菜さん」

「あ、おはよう、八乙女くん」

 靴箱からうわばきを取り出しながら答える。

 八乙女くん、相変わらず整った顔だなあ。色素のうすい前髪に朝日が透けてキレイ。

「今、ちょっといい?」

「うん」

 八乙女くんに呼び出され、ひとけのない職員玄関のほうへ二人で歩いていく。

 女子がヒソヒソと何かを話してるのが分かった。

 八乙女くんはキョロキョロと辺りを見まわすと、カバンから私が先週貸した本を取り出した。

「これ、ありがとう」

「いえ、どういたしまして」

 私が本を受け取りカバンに入れると、八乙女くんは急に何やらソワソワし始めた。

「その――えっと」

 八乙女くん、どうしたんだろ。

「それでなんだけどさ……若菜さんはどう思った?」

「へ??」

 どうって?

 私が首をかしげていると、八乙女くんは顔を真っ赤にして視線を落とした。

「それはえっと、この本の感想というか」

 ああ、そういうことか!

 八乙女くん、この本の感想を語り合いたかったんだ。

「ああ。えっと、前の和風のやつより好みかな。最後の舞踏会のシーンがロマンチックで」

「そうそう! あそこすごい良いよな!! すげーロマンチック!!」

 私の感想にものすごい勢いで食いつく八乙女くん。

 私がキョトンとしていると、八乙女くんはハッとした顔をして辺りを見回し、再び声のボリュームを落とした。

「あれ、いいよね」

「うん」

 こんなに興奮しちゃうなんて、八乙女くん、よっぽどあの本が気に入ったんだな。

 クールな男の子だと思ってたのに、なんかビックリ。