妙な胸騒ぎで目が覚めた。
外はまだ真っ暗で、おばあちゃんは眠ってる。

脳裏によぎる、断片的な夢のかけら。
赤いスカートの女の子が、ボクに向かって話してる。
だけど、何を伝えようとしてるのか、分からなかった。
あの子は誰なんだろう?
もう一度寝ようと頭をもたげたけれど、胸の中が気持ち悪い。
ボクは無理矢理まぶたを閉じた。

朝ごはんを平らげて、いつものように散歩を始めた。

庭を通って玄関へ出て、まずはおじさんにご挨拶。
角まで塀のふちを歩き、屋根に跳び上って近道をする。
赤いトタンから空き地に降りて、土管の上で一休み。
前足と尻尾をぐぐっと延ばしていると、傍の柿の木に小さな命がひとつ、ふたつ。
ボクは耳を傾けた。
「やっと外に出られたね」
「七年、ずっと土の中」
「今日僕らは巣立つんだ」
そういって、油ゼミの二匹は空へと飛んだ。

ボクは土管をひょいと降りて、使われなくなった工場の中に潜り込む。
薄いベニヤとトタンの隙間から、体をすべらすとボクの秘密基地にたどり着く。
町の印刷所だった場所だ。
剥がれて落ちた天井から、青くてきれいな空が見える。
机の上に広げられた新聞紙の上に、ゴロゴロと転がり遊ぶ。
乾いた紙とインクの匂いがたまらない。
遊んでいるうちに睡魔がやってきた。
そういえば、今朝はあまり寝てなかったっけ。
ボクはそのまま寝入ってしまった。