ケータイ小説 野いちご

【短編】クロがないた日

ボクはクロ

ボクはクロ。
単純だけど、おばあちゃんがつけてくれたこの名前は、とっておきの宝物。

黒猫にはいい印象がないという人がいる。
だけど、おばあちゃんは気にしない。
優しい声で名前を呼んで、いつも一緒にいてくれる。

ボクの一日のほとんどは、庭に面した縁側で流れてく。

朝は布団を干す音で始まる。
タタキに降りてチョロチョロ歩くと、おばあちゃんは笑って、ポンポンとボクの頭を軽く叩く。
それがボクたちのおはよう。

ごはんを食べたら掃除の時間。
この家に馴染んだ頃は、かまってほしくて、ホウキにじゃれて遊んだけど。
おばあちゃんの腰は、たくさん動くと痛くなるんだ。
夜になると、足と腰を叩いたりさすったり、眠れなくてとっても辛そう。
だから、ボクは決めたんだ。
この間は、散歩に出ることにしようって。

コースはいつでも一緒。
ちゃんと家に戻れるように、毎日決まった場所に遊びに行くのがボク流だ。

隣の家の人たちは優しい。
病気で戦地から帰省したおじさんの所に顔を出すと、「おう、クロか」とうれしそう。
指の欠けた手を延ばし、ワシワシと撫でてくれる。

向かいの家のおばさんは、おばあちゃんと一緒の時だけ愛想がいいから近寄らないけど、ボクを追い出そうとする人はここにはいない。

庭で作った野菜や果実のほとんどを、近所の人に分けているおばあちゃん。
決して豊かな食事はとってないのに、みんなでお食べと優しく笑う。
近所の垣根はボクの道。
屋根の上もボクの道。
みんな、おばあちゃんのおかげなんだ。




< 1/ 11 >