6話「動き始める予感」



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 「おい。おまえ、もう虹雫と付き合う事にしたのかよ」

 
 虹雫がキッチンで昼食の準備をしに席を立った際に、剣杜は宮に小声でそう話しかけた。
 宮が付き合うという報告を話し始めた時、驚いたのは付き合う事自体ではなく、もう付き合い始めたのか?!という、そのスピードの早さに対する驚きだった。
 咄嗟に演技をして何とか誤魔化せたが、早く宮に話がしたくて仕方がなかったのだ。
 だが、宮はいたって冷静に「こういうのは早い方がいいだろう?」言ってきたのだ。


 「宮、おまえ、付き合う事を渋ってたじゃないかよ」
 「やるって決めたらやるしかないだろ」
 「へーへー、潔いことで」


 剣杜は軽い口調でそう言うが、頭の中では混乱していた。
 まさか、こんなに早く付き合うとは思っていなかったのだ。と、なると、宮が話していたお試しでの恋人になったという事になる。
 虹雫がそれを受けるのか?と、思ったが、それでも付き合うと、言いそうだなと改めて考え直した。そう、あいつは長い間片想いをして、そして宮が大好きなのだから。もう諦めようと思っていたようだったのだから、こんな話をされたら即了承するだろう。チャンスになるのだから。
 けれど、虹雫はそのお試し恋人の事を剣杜には話さなかった。
 きっと負い目を感じているのだろう。
 本当の恋人ではないことを。


 「俺は約束を守った。だから、おまえにもやることはやってもらうからな、剣杜」
 「……わかってる。それには俺も協力するつもりだ」
 「助かるよ。決まり次第、連絡する」


 宮はソファから立ち上がり、そう言うとさっさと虹雫の元へ行ってしまった。


 これから何をさせられるのか、まだ何もわからない。
 けれど、きっとこれはやらなければいけない事なのだ。剣杜はこの間宮に話を聞いた時にそう思った。
 やってやろうじゃないか。

 嬉しそうに宮の背中を見つめながら料理を運んでくる虹雫を見て、剣杜は強くそう思った。