プロローグ




 3人で燃える紙の束を見つめながら、手を繋いだ。

 「何かの儀式みたいだな」と笑った剣杜の冗談は、その場を和ませるものだと分かっている。けれど、彼の表情は口だけは笑っていて目は鋭かった。彼が怒るのは珍しい。いつも明るい笑顔が似合う彼には、全くもって似合わない。そう虹雫は思った。

 「全部燃えたら、忘れるの。紙みたいに、なかったことにする。だから、2人も忘れてね」
 「………」
 「それでいいのか?」
 「うん」


 返事をしなかったのは、こちらも見た事もないぐらい憤怒している宮だった。
 穏やかでクールな彼の表情は暗い。そして、じっと燃える火を見つめて、思考の深い所で何かを考えているようだった。


 「じゃあ、忘れよう。虹雫がそれで笑えるなら」
 「うん。だから、ごめん………今だけ泣かせて………」
 

 我慢していたはずだったが、最後の言葉は震えてしまい上手く発せられなかった。
 さっきから泣いてしまっていたが、その言葉を伝えた瞬間に大粒の涙が虹雫の瞳から落ちた。地面を濡らした水滴は、夏の暑さと、炎の暑さですぐに蒸発し、消えてしまう。この悲しみも同じように空に飛んで消えればいいのにと、虹雫は思った。
 泣ているせいで体が震えてしまう。きっと、この振動は彼らにも伝わってしまう。
 心配をかけてしまう。悪い気持ちにさせてしまう。
 そう思うけれど、この2人なら大丈夫。虹雫はわかっていた。

 それに、これはなかったことになる。
 全ての紙が燃えて灰になれば、虹雫の涙も消え、脳裏に描かれる苦しくなる事もなくなるのだ。
 そして、2人の前で泣いてしまった事も。



 もう2人には心配をかけないようにしよう。
 泣かない。強い女性になろう。

 そう決心をして、最後の涙を流した。


 これは1人の秘密が、燃やされた瞬間だった。
 3人の秘密はここから始まった。