『ごめんなぁ、絃織…』


『と、父さん…』



じりじりと、大きな男が近づいてくる。

気が狂ったように涙を流して、時折発狂する男は紛れもなく少年の実の父親であった。


血だらけの屋敷。


昨日までいた男も女も家族も、世話人も皆して横たわっている。



『一緒に死のう、なぁ絃織……、お前だけは俺を見捨ててくれるなよ、』



男の手には拳銃が握られている。


腰が砕けたように座り込む少年は、子供らしく泣くことさえも許されなかった。

もしここでギャンギャンと泣いたならば、男は感化されてすぐにでも引き金を引いてしまうだろう。


もうその目に正常な判断は残っていない。



『俺は…まちがっていたか…?なぁ、絃織…』


『…とう…さん、』



まちがっていないよ、ただあなたは少しだけ追い詰めすぎただけなんだ───自分を。


かつての仲間がみんな離れて行ってしまったその組織はもう、組織として成り立ってはいなかった。

だっておかしいだろう。


頭(かしら)である男が組長をも殺して、仲間を皆殺しにして、しまいには息子にも手をかけようとしているのだから。