『触るな、それ以上俺たちに近づくな…っ』
『いーや、アタリだ。こいつは間違いなく那岐 慎二(なぎ しんじ)の息子だぜ』
震えている。
もう立てそうにない。
逃げなければ奴らは簡単に俺たちを暗闇へと落とすだろう。
それなのに動かないのだ、足が。
『うぁぁぁあああ…っ!!』
守らなければ絃が危険な目に遭う。
今までずっと口癖のように『守る』と言っていただろう。
それは言葉だけか?と自分を奮い立たせた少年は、絃を抱き上げながら傍の砂利場へ走った。
『くっ、このガキ…!!』
そして今あるぜんぶの力を振り絞って、男たちに握った石を投げる。
一瞬怯んだふりをして『なーんてな』と、ペロッと舌を出す男。
『来るな…!!俺たちに近づくなっ!!』
『おうおう、怖ェなァ殺人鬼の息子ってのはよぉ』
すると男は地面に転がった石を拾う。
ポンポンとお手玉のように遊ぶ様は、サーカス団のパフォーマンスのように見えた。
1度だけあるのだ。
小さな頃に家族で行った遊園地、ピエロがそうしてコロコロ回していた様を、実の母親の腕に抱かれながら目の前で見たことが。
『だが、なってねェな。テメェはまだこの石がナイフになるってことを知らねェんだ』
『───うぐっ…!!』
鋭く向かってくる石を避けることなど不可能。
泣き喚く絃の前に立つことしか絃織には出来なかった。
ポタポタと、当たった額からナイフで切られたように血が垂れる。