「……風呂、さんきゅ」

 ガシガシと頭を拭きながら、彼は歩いてきた。

「…………うん」

 一瞥して、短く言葉を返し、ただ垂れ流しているだけのテレビへと視線を戻す。

「……なぁ、」
「何」
「と、なり、座ってもいい、か……?」

 何で?
 単純に疑問符が浮かんだ。ソファの上で膝を抱えて、ただ垂れ流してるテレビを眺めている女の隣に座って、彼は何がしたいのだろうか。
 もうこれ以上、私をからかう必要なんてないだろうに。

「……一緒にいた人のとこ、戻らなくていいの?」

 イエスもノーも吐き出さず、視線も動かさず、独り言レベルの声量で呟く。
 ぶつかったあの時、お酒と甘ったるい香水の匂いがした。腕に絡み付いていたあの女性(ひと)が本命なのか、私と同じようにからかい半分で遊ばれているのかは知らないけれど、あの光景を見た瞬間、全てが馬鹿らしく思えて、どうしようもなく、自分が惨めで、憐れだった。
 テーマパークへ行ったあの日から、琥太郎をこれでもかというほどに傷付けてしまったあの日から、二週間弱。連絡を取れば情がわくからと彼からの連絡や訪問をを徹底的に避けて、自分の気持ちと向き合った。結局のところ、私は彼が好きなのだと、忘れたつもりでいても所詮はつもりでしかないのだと、認めた。
 だから次は、どうして今になって絡んできたのか、確認も含めて、染谷と向き合おうと私は覚悟を決めた。

「いや、あいつは、」
「ああ、付き合ってはない、って?」
「は?」
「……何でもいいけどさ、私を巻き込むの、やめてくれない?」
「……」
「……暇じゃないんだよね、私」

 だけど、全部、無駄だった。