「公爵令嬢リアーナ、今ここで、皇太子ファルコの名に置いて、貴女との婚約は解消する」
 え?
 えーっと……婚約解消?
 皇太子ファルコとは目の前の金髪王子で、公爵令嬢リアーナっていうのは私。
 私、皇太子に婚約を解消されちゃったってこと?

 お、お父様!想定外です!これ、どうしたらいいんでしょうか?!

 時はさかのぼること4年前。
 呼ばれて父の執務室へ入ると、父と母が揃って沈痛な面持ちでいた。
「リアーナ、すまない……」
 向かい合わせのソファに腰を掛けると、父がすぐに頭を下げた。
「皇太子殿下……第一王子のファルコ殿下との婚約が決まった」
「はぁ……えっと、ファルコ様と言えば、私より2つ年上で見目麗しくとくに悪い噂もない方ですわよね?なぜ、謝るのですか?」
 王子16歳。私14歳。
 公爵家に生まれたからには、恋愛結婚など夢見てはいない。政略結婚は覚悟の上だ。
「リアーナ、我が国エスティナは、とても貧しい国なのだ」
「え?嘘でしょう?」
 国民が飢えに苦しんでいるわけでもなく、貴族はそこそこ優雅に過ごし、王族ともなるときらびやかな生活を……。
「いや、本当だ……。国土の7割が山。耕作地は少ない。生活に適さない冬は雪に閉ざされる地域もある。……食料は隣国からの輸入に頼っている。輸入するための外貨は、産出する宝石で賄ってきた……。しかし、その宝石の産出量も年々減っている上に、需要が減り、供給過多で値崩れしてきている……」
 ま、じ、か!
「それゆえ、もう2代前の王の時代から、緊縮財政に徹している」
「はぁ」
「王妃になれば……今以上に節約倹約質素な生活が待っている」
 え?いや、でも……。王家主催の舞踏会とか行くと、とてもそんな風には見えなかったよ?
「我が国が貧しいということが、隣国にはばれないように、王家は常に見栄をはり豊かなふりをしながらの生活だ。実際は、ドレスは何代も前の王妃のものをリメイクしていたり、靴に至ってはサイズが合わないものを無理に履いて足を痛めたりもしている」
「いつもにこやかで素敵な王妃様が、まさか……」
 母がハンカチを取り出して目頭を押した。
「叔母様は、小さな靴が痛くて痛くて、もういっそ指を切り落としてしまいたいと嘆いていたこともありましたわ……」
 叔母様というのは、皇后さまのことだ。
 まさか、そんなことが……。