スーツケースを携えて、我が家の前に立っていたのは、昨日挙式したばかりの妹・撫子だった。呆然とする俺と初子に恭と離婚すると言い放った撫子は、現在、リビングで初子の淹れたお茶を飲んでいる。

「そのスーツケースは明日からのハネムーンのためのものではないんだな」
「ええ、ハネムーンは中止したもの」

撫子は堂々と言い、紅茶を口に運んだ。仕草はいつもどおり優雅だが、口調はツンツンとしている。

「どういうことだ。昨日式をあげたばかりだろう」
「どういうこともこういうこともないわよ。恭とはもう無理だってわかったの」

昨日まで幸せそうだった花嫁の発言とは思えない。一体全体何があったのやら。
というか、どうしてうちに転がり込んでくるんだ。俺と初子はやっと気持ちを伝え合ったばかり。今日から真の新婚生活が始まると言っても過言ではないというのに。

「撫子さん、お部屋を整えますので、少々お待ちくださいね」

初子が気を利かせて声をかける。

「ありがとう、初子さん。でも、そちらは初子さんが使っているでしょう」

初子が使っているスペースは以前撫子が使っていた部屋だ。部屋数はあるが、ベッドがあるのは初子の寝室だけだ。