柏木と付き合い始めてから、数週間。

 週の大半は柏木のマンションで過ごしていた。

 食器を一緒に買い揃えたり、料理を一緒にしたりと優しい時間を過ごしていた。

 柏木は、休みの日になると、水族館へ行ったり、映画を観たり、普通のカップルがするようなことを一緒に楽しんでくれた。

「そうだ。めぐみ」

「どうしたの?」

「結構先の話なんだけど、花火大会行かない?株主優待券で、いい席で花火が見れるんだよね」

「……」

「どう?」

「……ごめんなさい。花火はちょっと」

「あれ?意外。好きそうなのに」

「……」

 言葉が出ないめぐみに「無理しなくていいよ」と理由を聞かずに、柏木は彼女を優しく抱きしめる。

「ごめんなさい」

「キスしてくれたら許す」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて、柏木はおちゃらける。

 謝らなくていいよと追い詰めたりしない。

 めぐみは力なく微笑んだ。

「……」

「キスしてくれないの?」

 おねだり上手な策士は、花火大会のことなどすっかりなかったかのように振る舞った。

 ゆっくりと唇を重ねる。

 誤魔化すことを許してくれる、目の前の男にめぐみは次第に寄りかかっている比重が大きくなっていることを感じた。

 楽であると同時に、いつまで耐えたふりをしてくれるのか、止めることは出来るのだろうかと少しでだけ不安にもなる。

 柏木のセックスは本当に優しく、丁寧だ。包み込まれるような抱擁に、めぐみはゆっくりと瞳を閉じる。

 重なった唇からこぼれ落ちる甘い言葉は、吐息と共に消えていく。

 広いベッドの上で密着し行われる行為は、もうすでに生活の一部になりつつあった。

 白いシーツに皺が増える度に、めぐみの中がうねるように反応するので、中に入った柏木自身が更に固くなっていく。

 スプリングが軋む音、換気扇の回る音、そして二人の吐息が部屋の中に響くだけの昼下がり。

「相性最高だと思うんだよね」

「……恥ずかしいので、やめてください」

「そういう風に恥ずかしがる顔好き」

「溺愛じゃないですか」

「こんなに好きな子溺愛しなくていつするの?」

 にっこりと微笑まれると、恥ずかしくなって、意外にも鍛え抜かれた彼の胸元に顔を埋める。
 
 この胸元が好きだと思った。

「可愛いなぁ。そろそろ終わりにしてもいい?」

 めぐみが胸元に頬を寄せて甘えていると、彼女の頭を撫でながら柏木は優しく微笑んだ。

「いちいち聞くのやめてください」

「いじわるしたくなるんだよね」

「溺愛するんじゃないんですか……」

 急に動き始めたので、めぐみの言葉は言葉にならなくなった。

「溺愛しますよ。その細い体も、短い髪も、実は意地っ張りなところも全て」

 優しい、優しい柏木の言葉は、もうめぐみの耳には入っていなかった。