慎吾がめぐみに告白をしたいと悩み始めたのは、彼女と仲良くなってから一ヶ月経った時のことだった。

「悠也。俺真面目にめぐみのことが好き」

「はいはい。聞き飽きたっつの」

 大学の講義中に胸の内を披露されるのは、もう何度目だろうか。何度も何度も聞かされていると、まるで自分が告白さているような気分になる。

 雨上がりの午後、緑に落ちる水滴をぼんやりと窓越しに眺めながら、悠也はただ頷いていた。

「聞いてるのかよ。悠也」

「聞いてる、聞いてる。告白すりゃいいじゃん」

「えー、でも今は三人でいたいかも」

「なんなんだよ。付き合えばいいだろ」

「だって、悠也もめぐみのこと好きだろ?」

 唐突な言葉に、否定することを忘れた。

 慌てたように、顔を慎吾の方に向けると「隠すのが下手なんだよ」と吐き捨てるように彼は悠也に言った。

「好きは好きだけど、恋愛とかそういうんじゃないから」

「いや、絶対恋愛として好きだね。そしてめぐみもお前のこと好きだよ。俺にはわかる」

 時々、慎吾は思い込みで話を進めるところがある。

 本音として、慎吾とめぐみが付き合ったらいいと思っていた。

 めぐみと一緒にいるのは楽しかったが、慎吾の好きな相手を奪ってまで自分の心を優先させる気はなかった。

「意味不明だから」

 嘲笑うように、悠也は言った。

 そうやって気持ちを隠して言葉を吐いていると、不思議と気持ちも言葉に同調し始める。

「悠也はいいのか?俺とめぐみが付き合っても」

「しつこいな。いいって言ってるだろ。俺、そろそろ彼女作るから、お前は安心していけよ」

「そんな適当に恋愛してると、バチが当たるぞ」

 真剣な表情を浮かべる親友に、悠也は苛立った。

「人のことはいいから、お前が幸せになれよ。本当に好きなら、後悔しないようにすればいいだろ」

 偉そうにアドバイスをする。

 そして、悠也は慎吾の目の前で、清水萌に付き合うことを了承するメッセージを送信した。

「何やってんだよ」

「今から、俺彼女持ちだから」

「は?」

「告白されて、保留にしている子がいたから、その子と付き合う。だからお前もめぐみと付き合え。今日の昼から、俺抜けるわ」

 最善の気遣いだと当時は思っていたし、そうした事を今でも後悔していない。

 本当に、めぐみと慎吾には幸せになって欲しいと思っていた。

 悠也に萌という彼女が出来てから一週間経って、慎吾とめぐみは付き合い始めた。