百年は寝たような気がした。

 要は寝過ぎた感じがしたってこと。それでも気だるさはなくて、目覚めはとてつもなく爽快であった。

(あれ……?)
 ぱちぱち、と瞬く。極度の近視のため、眼鏡がないと視界がぼやけるはずなのに眼を開けた瞬間からくっきり見えるのはこれ如何に。そして、やたらにふわふわした布団の上にいるなぁ、みたいな。

 きっかり三秒後に、勢いよく起き上がった。私の急な動きにもちゃんと対応するふかふかマットレス。なにこれ低反発? 違う、言ってる場合じゃない。自分を見下ろして、白いネグリジェらしきものを着ていることに驚愕する。

 ネ、ネグリジェ?
 まさか!
 そんな洒落た言葉、私の辞書にも洋服ダンスの中にもないはず!普段は某ファストファッション店で最安値を狙って買うジャージの上下の、色違い3セットを着まわしているというのに!

 そして気づく、今寝ているベッドがキングサイズほど大きくて、しかも天蓋がついちゃってることに。天蓋って言葉、多分生まれてはじめて使いました。というか、天蓋付きのベッドってこの世に存在していたの!?

 ぱぱっと部屋を見渡すと、だだっ広いスペースに豪華すぎる調度品。とにかくベッドから降りようと試みると、なんて高いのこのベッド!つるつるに磨きあげられている大理石っぽい床は思っていた以上にひんやりしていたが気にせず裸足で窓辺に駆け寄る。外の景色に、思わずあんぐりと口をあけたまま、固まった。
 
 目の前に広がるのは広々とした洋式の庭園。家からまっすぐ伸びているのは、アスファルトではなくて、砂利道。映画で王侯貴族が出てくる時代のを鑑賞したときに目にしたような、まさにそんな庭園。

 そのタイミングで自分の髪の毛の先がさっと視界に入って、視線を下ろして戦慄する。

 き、金髪?

 さっと部屋に視線を巡らせると、ゴージャスな鏡台が目に入り、一目散に駆け寄る。そこには……とりあえず、私ではない、と確信を持っていえる西洋人風美少女がいた。

 こぼれんばかりの大きな碧の瞳、鼻筋はすっと通っていて、きゅっとしまった口元、何より淡いけれどもきらっきら輝く金色の腰に届くばかりの長い髪……。文句なく美人だ。そして何より若い。私は三十一歳だ。しかしこの少女は二十歳になってないくらいだろうか。