右!よし!


左!よし!


前方!よし!


後方!誰かにつけられている形跡もなし!!





よし…いざ!!!





心の中の勢いとは裏腹に、私はコソコソと小さくなりながらマンションを出た。





はぁ…なんとか脱出(?)成功…




私はホッと胸を撫でおろしながら、やっといつものように顔を上げて道を歩く。





ていうかさっき…さっき…




キスされたよね!?





思わず唇をおさえる。顔中に熱が集まるのを感じる。





なんで采斗、突然私にキスなんか!?



こないだ見たドラマで采斗すっごく綺麗な女優さんとキスしてたけどということはつまりそれは私と間接キスちがーう!!!!




私はパニックになりすぎて変な方向にいきかけた思考を慌てて修正した。




落ち着け、落ち着くのよ柏木優里!




きっと采斗みたいな芸能人にはこのくらい普通の、ほんの挨拶みたいなものなんだきっと!ていうか絶対!確実に!そうに違いない!!



あんなに気弱で泣き虫だった采斗をこんな風に変貌させてしまうなんて、恐るべし芸能界……!




なんて考えている時だった。




「ねえ、もしかして優里!?」