「ねえ。キスしよ?」



目の前には幼なじみであり…国民的人気俳優でもある彼の整った顔。



そしてそんな彼に壁に押し付けられている私、今をときめく人気女優…などではなく、どこにでもいるごくごく平凡な女子高生。




「…えっと…あ、もしかして今撮影してるドラマで今度キスシーンがあるとか!?その練習がしたいとか!?」


「違うよ。練習で優里(ゆうり)とキスなんかしたくない」




俺がしたいのは、と、真剣な表情で采斗(あやと)が続ける。





「演技じゃない、本気のキス。わかるよね?」




つ、と采斗が私の頬を人差し指で撫でる。




そんな采斗の背後では、テレビが煌々とついていて…ちょうど采斗が主演しているドラマが始まったところだった。




「ね、ねえ見て采斗!采斗のドラマ始まったよ…!」



「心底どうでもいい」




冷たい声で言って、采斗が素早くリモコンでテレビを消した。




「えええいいの!?今微量ながら視聴率が下がったのでは…」



「それよりこっちに集中してよ。優里?」



「…っ」





一目で日本中の女の子のハートを鷲掴みにする彼が…今その瞳に私だけを映して、甘く微笑んでいる。




信じられない。
そう、到底絶対に信じられない。



これは嘘…夢…幻!!




「嘘でも夢でも幻でもない」



私の思っていたことは全部顔に出てたらしい。




「俺たちは本当に、正真正銘の…婚約者なんだから」




そう言って采斗が、心底嬉しそうに目を細めた。






そもそも、こんな事態になったのは。


かれこれ昨日にまで遡る……