明くる日。
「別に迎えにいらっしゃらないでも、私から伺いしましたのに」
「そそそ、そういうわけにもいかない……こんな朝早いのだから」
いくらただのデブ白豚であろうとも、仮にもランデール国第一王子。勉学やら公務やらで忙しいらしく、朝日が昇って間もない時間に、馬車で迎えにやってきた。
そして馬車で揺られること、体感十数分。お尻が痛くなるよりも早く到着したのは、見事な白亜の城。家の窓からも見えていたものの、間近で見る迫力は圧巻。前世で旅行にもいけなかった私にとっては、出来ることならカメラで撮りたいくらいだ。
だけどまぁ、そんな欲求は咳払い一つで我慢して。
「そそ……それで、ぼぼ僕は何をしたらいいのかな？」
「走ってください」
「え？」
「ダイエットです。減量です。私のために痩せてください」
私を案内するために先導していた王子の足が止まる。
「リリ……リイナは、スマートな男性が好きなの？」
「正直申しますと……婚約者がイケメンで嫌な女性はいないと思います」
「いけめん？」
あー、そういう俗語はないわけか。なぜか知らないけど、言葉は自然と話せていた私。誰が両親か……など、最低限の知識が備わっていたのは、やはり『リイナ＝キャンベル』としての記憶なのだろう。だけど、婚約者の顔を忘れていたりなど、所々わからないことは、長期間に及ぶ高熱の影響による記憶喪失、とされた。まぁ、あながち間違いではないよね。厳密にいえば、前世の記憶が蘇り、別人格になったって感じだけども。
だけど、白豚王子ことエドワード王子はブツブツと少し考え込んだのち、
「リリ、リイナがそう望むなら……」
長い前髪の奥で、微笑むように目が細まった気がした。
