王子様と言えば。
 容姿端麗。文武両道。悪を挫き正義を貫く。聖剣を携え、いざとなれば身を挺してまもってくれる――のは、少々勇者が混じっているかもしれないけど。

 ともあれ、実は『剣の腕が立つ』なんてステータスがあれば、その魅力が格段にアップすること違いない。

「エドワード様は、剣術とか嗜んでいないのですか?」

「……エド」

「エドは! 剣は不得手なんですか?」

「け、剣?」

 さすがは王子というべきか、こんな不毛なやり取りを挟みながらも、きちんとナイフとフォークを置いてから声を発するエドワード様……もとい、エド。

 ちなみに、今日の朝食メニューはホワイトオムレツとほうれん草の白和え。主食に全粉粒のパン。それにヨーグルトと果物という甘味付き。

 この世界に白和えなんてとビックリしたものの、なんと新米シェフの意欲作がたまたま王子の目に止まり、採用されたとのこと――王子が私のリクエストを厨房に頼みに行った際に、ショウが上手く売り込んだらしい。ショウを採用したのもエドらしいし、よくわからない所で繋がるもんだよねー。

 そんな白和えは洋風にアレンジしてあり、他の品とも調和性が高い。それをウマウマと咀嚼してから、王子の問いに答えた。

「そんな深い意味はないのですが……いざという時に颯爽と戦える王子様とか、カッコいいかなぁと思いまして」

「そ……それも『いけめん』の条件ってこと?」

 王子の話し方は、あの小っ恥ずかしい発声練習の成果もあって、だいぶマシになってきた。なので早々に止めさせようとしてものの『でもまだ訓練始めて一月も経ってないし。またすぐに戻っちゃうかも』と自信なさげに言われたら、ぐうの音も出ない。今朝も散々愛を叫び合ってきた所だ。

「そうですね。まぁ、出来ればですけど」

「そうか……」

 王子は物音ひとつ立てずに、立派なグラスに入った水を飲む。そして私に向かってニッコリと微笑んだ。

「わかった。リイナが言うなら僕、頑張るよ!」

「嬉しい! 期待してますね」

 私がそう笑い返してからオムレツを食べようとした時、皿とナイフがカチッと音を鳴らす。すると、給仕の人がクスッと笑い――王子が大きな咳払いをした。

「リイナ。明日からは始めから切り分けたものを提供させようか。君の小さな口じゃ、食べにくかったよね?」

「あ、その……」

 今更の話だが……貴族社会ではマナーが厳しい。食べ方のみならず、水の飲み方ひとつでさえ、物音を立てないように、そして優美に見えるような仕草が当然のごとく求められる。

 そして正直、前世の大半をベッドの上で過ごした私に、そんなマナーが身についているわけではなく。

 気恥ずかしさと誤魔化し方にまごついていると、エドが「大丈夫だよ」といつになく優しい笑みを浮かべていた。

「リイナは病み上がりだからね。多少ふらついても仕方ないよ。でも無理はしないでね。言ってくれれば、僕はなんでもしてあげるから」

 エドワード様。ごめんなさい。もう『リイナ』になってから二ヶ月近く経ちました。
 私はどこも……具合悪い所がありません。