高校に入学して、たったの一時間。
わたしの心は……いや、耳は、ある人物にうばわれてしまっていた。

「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。この学校の生徒会長をつとめています、岸といいます。さて、この学校は、三つの学科に分かれ、それぞれ県内でも随一の―……」

キシ。名前はそう聞こえた。
遠目にしか見えないけれど、スラっとした体型をしている。

眼鏡をかけているのもわかる。どんな顔をしているかはハッキリわからないけれど、わたしの意識はその人に釘付けだった。

「……であり、また伝統ある行事も多くー……」

 マイク越しに体育館中に響く声。
 正直、内容なんて頭に入ってこない。なぜなら、

(すっごい、いい声……)
 低くて、甘くて。それでいて、耳に残る。
まるで声優のような、深くて通る声をしている。

「……年、四月七日。泉西高等学校生徒会会長、岸遥真(きしはるま)

会長は深く礼をして、壇上から降りて行った。
最後までいい声。もっと、聞いていたかったな。

……キシ、ハルマ先輩。
わたしが入学した、泉西高校の生徒会長を務める三年生。

そのわずか数分のあいさつを聞いただけで、わたし・橋本陽菜子(はしもとひなこ)は、会長のファンになってしまったんだ。