カフカス王領国史上
最年少で
最優位魔導師に就く ザードが、

翼龍隊と相乗りをして
上空から見る藩島は、
そこかしこに
配された
海神ワーフ・エリベス像から
温水が噴き出す
異常な光景だった。

「本当に藩島おわりみたいな
景色って、感じじゃないか?」

ザードの
漆黒の後ろ下げ髪が
珠に上空高くまで噴く、温水と
未だ鳴り続ける、鐘の振動に
煽られている。


『ガラーーーンガラーンガラー
ーーンガラーーンガラーー』


「ザード殿、申し訳ない。
本来なら、すぐにお送り出来る
のですが、こう、水柱が立つと」

翼龍とはいえ、
避けながら飛ぶのは至難でと、
ザードを乗せる
龍隊員は 苦笑した。

龍隊員が気にして謝るのは、
相乗り騎乗しながらも、

ザードが 指をひっきりなしに
舞わして、魔導師の配置指示を
していると
判っているからだ。

「いや、こっちこそすいません。
随分遠くまで運んでもらって」

ザードも
神がかる虹色に変化した眼で、
龍隊員に礼を取る。

「何より、翼龍も落ちつかない
ってなってますから、、」

続けて、ザードは龍隊員に
申し訳ないと、詫びた。

カフカス王領国最優位魔導師は、
その地位の割には
十代と、余りに若い
様相をしている。

その若さで、過分な魔力を
過重されての、この指揮権。

王将軍テュルクからザードに
直接分けられた、膨大な魔力
だけでも
翼龍が共鳴してしまう程に
その責務は計れない。


『ガラーーーンガラーンガラー
ーーンガラーーンガラーー』

『ンガラーーーンガラーーーン 』


弔いの鐘が鳴るが間は、

通事と軽身体魔法以外の魔法の
行使は
不可能になるが故に、

普段のザードなら
騎乗する事のない
翼龍といった『魔獣』を使って、
移動するしかない。

「まさか、テュルク様の力分けが
される等、考えられません。」

今、ザードが相乗りする翼龍も
ザードの眼と同様に、
ザードに内包された魔力に
共鳴して、虹色へと変貌
しているのだ。

龍隊員は、翼龍を宥めながら
加えて、水柱を避けて飛ぶ。

「しかし、ザード殿が自ら
この緊急時に、向かわれるのは」

本当に、海の街のギルドで?
と確認されて、ザードは

「ああ、とにかくそこに行って
あうべき魔法師がいるんだ。」

と難なく答える。

「魔法師ですか?」

龍隊員が驚くのも無理無い。

「元、魔導師で、今は魔法師に
なっているんだ。マイーケ・
ルゥ・ヤァングア嬢の側仕えは」

ザードが口にした人物の名に、
龍隊員は、ああとだけ 音にして
静かに口をつぐんた。

そのうちに、

目の前に 城からも見た、
どんどん乾上がる海中都市が
顕になる海が先に横たわり、

ザード達を乗せた翼龍が
海の街にある
白壁に赤瓦の建物前に降り立つ。

いつもなら、この建物の間際まで
海が寄せて、ゴンドラが
停泊しているのが、
変わって
海底から顔を出した
石造りの遺構に
ゴンドラが
散らばっていた。

「魔法師が集まっていますね。」

翼龍から降りたサードに、
龍隊員は 広場を示して
虹色になった龍を、ギルド前に
つなぐ。

ギルド広場にも
海神ワーフ・エリベス像が
温水を噴き出させながら 、
集まる魔法師を見下ろしている。

『おい、ザード様じゃないか?』
『ええ!こんな所に?い、今?』

ザードが飛ばした配置指令から、
ギルドを介して魔術師は
すでに、個々の配置に
ついているはず。

「ギルド長は!」

ザードは、魔法師が集まる広場を
一瞥して、声を挙げる。

「私、ラジが長でございます、
最優国魔導師ザード様。」

広場に召集された人垣から、
獅子の鬣を持つ
日焼け体の精悍な男闘呼が
1歩前に出た。

熟年味を帯びた燻し銀のオーラ。

一目でこのギルド長が
元勇者クラスまで
登った
叩き上げの冒険者だと解る。

「状況は知っての通り、
時間がない。緊急時の対応も
ギルド長なら、 知り得ている
だろう。ワーフ・エリベス 像
に繋がる孔、
地底の結界魔法陣に魔力を
繋げる為の孔から
地殻変動より温水が噴出して
い る。このままでは、藩島の
結界魔法が瓦解してしまう。」

ザードが手っ取り早く状況を
通信魔法で
ギルドや、商家、門閥貴族を
介して
魔道師、術師、法師に伝達して
いるが為、このギルド広場にも
魔法師が集まっている。

「我々ギルドの縄張りに配する
ワーフ・エリベス像の孔で使う
魔充石も今、配分を終えて
おります。いつでも可能に。」

ラジ自身も、魔充石を手にして
いるなら、
この広場のエリベス像は
ギルド長自ら行使するのだろう。

辺鄙な海街のギルドに、
意外な才能もいるのだと
ザードは、頷いた。


生まれた時より魔力を持つ
カフカス王領国の民達。

魔法にて国に仕え、

魔力量や種類を
赤子から多く体内に有する
魔力が高い者。
その殆どが上位貴族を占める
魔導師。

魔力量を訓練にて増大させ、
複数種類の魔法を使い
ギルドや商家付きになるのが
魔術師。

そして、フリーランスで流れモノ
仕事をする魔力操りを
魔法師とランクしている。


「それで、すまないが ヤオ魔法師
は、どこにおられるだろうか? 」

ザードはここにわざわざ
足を運んだ理由の魔法師の名を
ラジに向かって口にした。

その名を聞いてラジ長の片眉が
上がる。

「ヤオ魔法師はすでに、配置に。
彼女は、
魔充石は必要ありません故。」

ならば、

「海か、」

ザードが 海底から露出する
石造りの遺構に視線を投げると、
ラジが頷き、

「本来なら海中にある都市機能の
遺跡に、古い時代のワーフ・
エリベス像が ございます。其が
ヤオ魔法師の役となります。」

藩島に無数配されたエリベス像で
唯一海の中にある
神話時代のワーフ・エリベス像。

このポイントは、
沖の水中深い場所に
潜水魔法を常時行使ししつつ、
エリベス像に
魔力を注入する責になる。

「ザード殿!自分は此処で待機
しております!行ってください」

少し離れていた、龍隊員が
ザードに告げる。
虹色になる龍を、今エリベス像に
近づける訳にはいかないのだ。

「すいませんが、宜しくお願い
します。すぐにもどります。」

ザードは身体強化を自分に施し、

本来はまだ海中と思われる
剥き出しの古代都市遺構を
若者らしく
ヒョイヒョイと、
身軽に飛び歩いて沖へ
出て行った。



『ガラーーーンガラーンガラー
ーーンガラーーンガラーー』


沖に出てさえ、弔い鐘の音が
響く、いや沖に来る程に大きく
足元が揺れるように
聞こえる。


ザードの目の前に、
遺構神殿と思われる残骸に
一際大きな
海神ワーフ・エリベス像が
聳えるのが見える。

「ヤーオ・ルゥ・ヤァングア嬢」

漆黒を後ろ下げた髪が、
残る潮風に吹かれるのを 抑え
ザードは、

その巨像の足元に佇む

牧場色をした
クリンクリン頭の
ローブ姿に 後ろから名を呼んだ。

ずっと巨像を見上げていた
巻き毛が動いて

「ザード・ラジャ・スイラン
魔導師様、今 なぜ ここに?」

ゆっくりと、漆黒の瞳で
ザードを、彼の眼を捕らえる。

初めて城内で、マイケルの後ろを
くっついて歩く姿は、
まだ二桁に成らない年の
少女だったと、ザードは
ハッキリと憶えている。

「その目と、オーラ、、王将軍様
から力分けされたのですね、」

そんな少女の姿はもう、
3年もすれば、成人を向かえる。
カフカス王領国では、
15才で成人。

目の前で魔法師のローブを
纏う少女の顔体には
女と少女の狭間の色がある。


『ンガラーーーンガラーーーン 』


ザードとヤオの間に 鐘の音が
溝を作って鳴り続ける。

「この弔い鐘って、、主
マイケル様への音ですか?」

ああ、貴方たちには
もう罪の人でしたよね。

と、ヤオは 皮肉気に笑った。

そして

「大丈夫です。優国魔導師様の
ご指示をうけ、ヤオも ここへ
きました。ちゃんと、やります
から、魔導師様は指揮へ
かえってください大丈夫です。」

ザードに軽く拒否を滲ませて
部下の礼を取る。

胸に両手をクロスして、
長く腰を落とし、頭を 相手に
下げる礼は、忠誠の礼。

ザードの眉と、僅かに口が歪む。

が、頭を挙げないヤオの礼を
幸いと、歩み寄ると、
テュルクがザードにした様に

今度は、ザードがヤオの頭。
頂点のチャクラにむかって
片手を差しかざす。

「ザード!!」

瞬間、ヤオの肩がはね上がった。
ザードが自分に施している事を
直ぐ様理解して、
頭を下げたまま、固まっている。

ヤオ自身、己の眼が
虹色に染まり、髪が漆黒変化た
のを感じて顔を上げた。

そこには 2人の虹色眼持ちが
相対する。

「これだけの魔力、わけても、」

ヤオの震える喉から出ることばに
ザード自身も驚愕しながら

「確かに、テュルク様は どんな
魔力をお持ちなんだって、
おもうが、ヤオの魔力の量が
多いって ことだよ、これ」

同意する。

「いえ!ザード!どうして?!
これって貴方が使う量よ!
それを、一部わたすなんて!
わたしを見くびらないで!」

それを
ヤオが、金切り声で詰め寄った。
『これ以上』
馬鹿にするなと
自分への自責と国への憤怒を
隠しもせずに、睨み上げる。

「見くびってなんかいない。
魔導師
ヤーオ・ルゥ・ヤァングア。
ここに、他の魔導師は来ない」

ザードは表情の読めない声で
ヤオに信じられない事を
告げた。

「なぜ?!ふつう、最低でも
1人は筆頭位の魔導師がくる
もんでしょ?今からくるんだと」

ヤオは、
ザードの言葉を鵜呑みにはせず、
島の方を遠視する。

このワーフ・エリベス
ポイントは本来海中に有るため、
潜水魔法でポイント接近し、
魔力注入をする。

それだけで、消費する魔力が
多大であり2人の魔法師で当たるのを、ヤオが役とされた。

そして、このポイントはさらに
魔導師が注入される魔力流を
道に結界内部に入る役が
成される。


「ヤオ、君が1人で全てをやる」

唇を蒼白にして聞くヤオに、
ザードが ヤオの虹色変化した
瞳を見つめて 告げたのは、

テュルクの力をさらに分け与えた
理由でもあった。

「ひどい、、。これが、、、
罪の人と、、、主を牢やに
入れられた、、側仕えへの、」

罰なのね。

せっかく、マイケルが
自分たちみたいなのが
使い捨ての駒に
されない方法を
見つけてくれた のに。

涙も出ないと、ヤオは
立ち尽くす。


『ガラーーーンガラーンガラー
ーーンガラーーンガラーー』

「ちがう。」

『ンガラーーーンガラーーーン 』


「違う!違う!ちがう!!
そんなこと言ってるんじゃない!」

ザードが 虹色眼を見開き、
オーラを覇気にまで変える程

ヤオに詰め寄った。

「ヤオ!1人でやり切るんだ!
本来なら、魔力を扱う者3人での
役を、たった1人でやり切れば、
ヤオは、
ヤオは、英女になる!そうすれば
マイケル様の名を救い上げれる」

その覇気を纏ったまま
ザードは、
ヤオを正面から 抱き締め、

虹色の瞳を空に泳がせ
呆気にとられるヤオの耳元に、


そしたら、
『ラジャ・スイラン』になって。



更に覇気を強めて囁いた。