さて困った。どうしたものか。
 なんて思っても、己の欲には勝てない。

「玄」
「っ、ゆ、う……しん、」

 結局、俺は映画にお供した。
 そのあとも、一緒にゲームをしたり山に登ったりと、彼女の定休日を共に過ごした日々。雇われてから八ヶ月ほど経ったとある日の昼下がり、一番近いスーパーマーケットに買い出しに来ていた俺は、予期せぬ人物からの呼び止めに、びくりと肩を揺らした。

「あ、れ? どったの、お前、仕事は?」
「有給」
「ゆーきゅー」
「お前と、凪沙に、話ある」

 ひとまず、手に持っていた玉ねぎを置いて、まだ何も入れていなかったスーパーのカゴを元の場所へと戻した。

「ん」
「さんきゅ」

 買い物を後回しにするという態度から察した悠真は、スーパーからそう離れていない公園にて、自販機のコーヒーを俺へと差し出す。
 それを受け取り、ベンチに並んで座ったところで「んで? 話って?」と切り出せば、悠真は視線を俺へと向けた。

「玄、お前さ、」
「うん?」
「凪沙のこと、好きだよな」
「っ!」

 っぶねぇ! コーヒー吐き出すとこだった。

「は!? ンだよいきなり」
「否定しねぇの?」
「……は?」
「図星じゃなきゃすぐ否定するだろ、お前」

 吐き出しによる惨劇を何とか食い止めるも、悠真の猛攻は止まない。
 図星っちゃあ図星だが。そりゃ、馬鹿みてぇに惚れちまってるが。片想いはどこまで行ったって片想いなんだから、別に、いいだろ。好きでいるくらい。

「……手は、出してねぇぞ」
「まぁ、それは見てりゃ分かる」

 言いたい。けど、言えないから、コーヒーを口に含んで、言葉と一緒に飲み込んだ。