ごめんなさい、田中先生。

教室を出て行くその背中に謝る。

先生のお話は右耳から左耳へと流れていきました。


遥斗くんのことを考えていたから、ずっと夢見心地。

気付けばショートホームルームが終わっていた。



「珍しいね、衣織(いおり)がぎりぎりに来るなんて」

「未緒!そうなの…」



くるりと私の方を振り向いた藤田未緒(ふじたみお)

肩上で揃えられたボブヘアがよく似合っていて、今日もくるりとまつ毛が上がっている。

大人っぽくて、こてんと首を傾げる仕草は可愛い。



「寝坊?」


うんうんと頷く。
寝坊したのは事実だけど、それよりも。


「今日も遥斗くんがかっこいい…」

「あ、そう。よかったね」

「うん。よかった…」


未緒の呆れたような視線が降ってくる。

彼女の顔には『いつものだね』と書いてある。

でも、今日はいつもと違うんだよ。
そう言おうとしたところで、未緒が先に口を開いた。


「1時間目席替えだね」

「あっ、そうだっけ?」

「もう5月じゃん」

「本当だ」