「良い雰囲気のお店だね」

 席についた君が、嬉しそうに微笑む。

「さすが諏訪くん、て感じ」

 そうかな、なんてなんでもないように振る舞ったけれど、喜んでくれる君を見て、本当はガッツポーズしたいくらい嬉しかった。

 ペアシートが多くて夜景が見えるところも、ピアノの生演奏を聴きながら飲めるところも、君が好きそうだと思って、前から連れてきたかったんだ。

「…告白するにはぴったりの場所だと思わない?」

 この窓際の席で君に愛を囁いて、君の喜ぶ顔が見れたら。


「なるほど、そう言うこと?」

 君は屈託のない笑顔を浮かべ、かと思えばふ〜んそっかそっかと少し恥ずかしそうに肩下まで伸びた髪をくるくると指で遊ばせる。


「でも、こういう店に女から誘うの、ちょっとハードル高くないかな」


 胸の内側が、ギュッと苦しくなる。

「軽く飯でも行って、その後少し飲まないかって言えば、そんなに難しくないだろう」

 僕が今日、君をここに誘い出した時みたいに。

「たしかに。じゃあ、頑張ってみようかな」

 その時のことを思い浮かべてみたのか、ふふっと照れ笑いする君が、愛しくて、恋しくて、目の前にいるのに、ひどく遠い。


「とりあえず、何か頼もうか。」

 今この時間が僕と君のためにあるならば。

「そうだね、何がいいかなあ。諏訪くんオススメのカクテルって何?」

 僕の気持ちを君に送ることを許して欲しい。

「アメリカーノ。かな」

 届かぬ思いを君へ。