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「愛来様ドレスは何色になさいますか?時間がないので急ぎ仕立て屋を呼びますが、大体の色は考えておいてください。それとお披露目の際の手順や作法の練習もありますのでライデン治療院は婚約パーティーが終わるまでお休みしてくださいね」

 ウィルと両想いになったあの日から一週間、周りが何やら騒がしい。それというのも、ウィルと私の婚約発表パーティーを執り行うと王が発表したからだ。婚約発表のパーティーが開かれるのは三か月後だというのに周りの慌てようは半端ない。リミルが言うにはドレス一着作るにしてもデザインを決め、布決め、採寸、裁断、工程は沢山り時間もかかる。しかも現王妃フィーナの婚約発表の時は一年前からドレスを作りそれは豪華なパーティーだったらしい。それを三カ月でやらなければならない周りの人間は大変だ。

 愛来もこうしてはいられない。今日は作法の勉強のため自室にて昨日の復習中だ。今日は遅れているようだが、もうすぐ家庭教師の先生がやってくる頃だろう。「コンコンコンッ」と自室に扉のノック音が響く。

「愛来様遅くなりました。イッツェルです」

 入室したご婦人は綺麗な薄茶色の髪を揺らしながら美しい所作でカーテシーの礼をとる。この人は愛来の家庭教師でイッツェル・ファイナ伯爵夫人だ。

 愛来もイッツェル夫人を真似てカーテシーすると、イッツェル夫人が目を細める。

「愛来カーテシーが上達なさいましたね。とても美しいです」

「ありがとうございます。それにしても夫人が遅刻なんて初めてですね」

「はい。家を出ようと思いましたらひどい雨で遅れてしまいました。申し訳ございません」

「雨?ですか?」


 愛来は窓の外を見つめるも、外はとてもいい天気だ。だが夫人が嘘をついているようにも見えない。現にスカートの下の方が濡れているし。


「最近異常気象続いているのです。隣の国では大きな雹が降り、晴れているのに落雷が落ちたり、この国でも本日のように急に天気が変わったりと……恐ろしいですわ。これ以上なにも無いといいのだけれど……そんなことより愛来様勉強を始めましょう」


 気を取り直しイッツェル夫人が教科書を片手に勉強が開始される。今日はこの国アルステッド大国の歴史にについて、社会の勉強だね。勉強はあまり得意ではなかったけど何だろう、好きな人のためだと思うと頑張れる。なんだか不思議。



 午前の勉強が終わると午後は作法のレッスンだ。美しく見える歩き方や、後ろから呼びかけられた時の振り返り方、微笑み方、細かい所までチェックが入る。

 この世界のご令嬢はみんなこれを小さいころから身に着け努力を重ね、淑女と呼ばれるレディーとなる。私はそれを三カ月でマスターしなければならない。

 やばいよ。

 無理なんて言ってられない。ウィルが恥をかいちゃうもん。頑張らなくちゃ!!


 パンッパンッパンッとイッツェル夫人が手を叩いた音にハッと我に返る。

「とても良い集中力です。ですが本日はこれで終わりにしましょうか。お迎えも来ているようです」

 お迎え?