うーん。暑い……。

 薄らと目を開けると、何故か愛来は芝生の上に寝転がっていた。


 じんわりとおでこや首に汗がにじみ出してくる。

 今は冬のはずなのに……。

 愛来は目をこすり起き上がると固まった。もう一度目をこすり、目を見開くが目の前の風景は変わらない。

 神社にいたはずが目の前に広がるのは……。

 風にゆれる緑の芝、切りそろえられた木々、美しく咲き誇る花々が太陽の光に照らされて輝いている。

 ここは何処?

 愛来は絶句しながら目の前の景色をながめていた。

 本当にここどこよ。

 公園?

 ものすごく広い敷地にイングリッシュガーデンって言うのかな?左右対称の庭?公園?は、とても綺麗に整えられていて、落ち葉一つ落ちていない。花壇や木々がすべて左右対称に配置され、腕のいい庭師さんとかがいるのかな?と思わせる。日本にこんな所があったんだと、あまりの美しさに感激してしまう。

 しばらく庭を眺め、クルリと後ろを振り返った愛来の目に飛び込んできた建物を見つめ、再び絶句した。

 何これ?

 お城?

 お城と言っても日本にある時代劇のような城ではなく、とがった鉛筆がいくつも刺さったような、お姫様や、王子様が住む白亜の城だ。

 下から城を眺めているだけで首が痛くなってしまうほど大きなお城。

 私はどうしてこんな所にいるの?

 季節も何だかおかしい。

 私は真冬の日本にいたはずなのに。

 今は夏に近いと思う。

 愛来はあまりの暑さにダウンとマフラーを脱いだ。

 すると、少しはなれた場所に一人の男性がフラフラと倒れ込むように東屋へ入っていくのが見えた。

 良かった人がいた。

 愛来は人がいたことに安堵の息を吐いた。

 それにしてもどうしたのかしら?歩き方がおかしい。

 具合でも悪いのかしら?

 心配になった愛来はそっと東屋のベンチで眠っている人物に近づいた。

 うわっーー。外人さんだ。

 めちゃくちゃ綺麗な外人さん。

 髪は綺麗な金色で太陽の光でキラキラと輝いている。同じ色のまつげは長く、閉じている瞳の下に陰が出来ている。肌はきめ細かく毛穴やそばかすなど一つも無い。スッと通った鼻筋。目を開けたら瞳の色は何色なんだろう?

 愛来はボーッと横たわる男性に目を奪われていたがハッと我に返った。

 それにしても顔色が悪い。

 よく見ると、目の下にクマができている。

 目元を確認するため愛来は、そっと目にかかっていた金色の前髪をサラリと左右に分けたとき、愛来の右腕を眠っていた男性が掴んだ。

「貴様何者だ!!」

 すると大気がゆれ東屋がガタガタと揺れ出した。

「じっ……地震!!」

 愛来は咄嗟に目の前にいる男性を守るべく、男性の頭をギュッと抱きしめた。

 しばらくすると揺れは収まり愛来はホッと胸を撫で下ろした。

……しっ……しまった。

 何も考えずに、見ず知らずの男性の頭を抱きしめているこの状況……。


 カオス!!


 男性は何故か微動だにせず、愛来に頭を抱きしめられたまま動かない。


「…………」


 ちょっと何か言ってよ!!

 さっき日本語話してたよね?

 恐る恐る愛来は男性の頭に回していた腕の力を緩めるとそっと話しかけた。

「あっ……あの……ごめんなさい。大丈夫ですか?」

「……」


 やっぱり言葉が通じないのかしら?困惑しながら愛来は目の前の人物を観察する。

 ああ、やっぱり目の下にクマが……。体も猫背になってるし、肩かなり辛いんじゃないかな?

「あの……体かなり辛いんじゃないですか?少しここに座って下さい」

 愛来は無理矢男性を理椅子に座らせると男性の来ていた上着を脱がせようとした。すると男性が慌てた様子で声を荒げた。

「なっ……何をするつもりだ?」

 なんだやっぱり言葉、通じるんじゃない。

「静かにして下さい。さっさと上着を脱いでシャツ一枚になって下さい。裸になれとは言いませんから」

 男性の上着のボタンを無理矢理外すと、脱いだ上着を手に持ち愛来は仰天した。

「うわっーー。何ですかこの重たい服」

「これは……」

「まあいいや、始めましょう」

「いいのか!!」

 男性の話を聞かずに施術を始める玲奈。

 男性は思わず突っ込みを入れたにもかかわらず、無視を決め込む玲奈を物珍しそうに見つめている。

「前を向いて下さい。まずは首から見ていきますね」