ライラによる悪役令嬢糾弾未遂事件は幕を閉じたが、ファルマンに啖呵をきってからというもの、イリーナの生活は一変した。
 元の姿に戻ったイリーナは学園に通い始めた。ファルマン自身がイリーナであれば編入大歓迎と豪語していたのでさっそく編入させてもらった。ただしそれはファルマンの命令ではなく自分の意思だ。
 学園に通えるようになったイリーナは自身の研究で病を克服したという噂とともに注目されている。

 成り行きではあるが魔法学園の校長を目指すことになったイリーナにはやるべきことがたくさんあった。まるで破滅回避のため研究に奔走していた日々に戻ったようだ。ただし今回は孤独な戦いではなく頼れる人がたくさんいる。幼女化を通してイリーナは家族の愛情を知ったのだから。

 しかしなりたいと声を上げても簡単に希望が叶うものではない。魔法学園の校長とは、絶大な信頼と強大な力の上に成り立っている。学園すら卒業していないイリーナには地道な積み重ねが必要だ。
 まずは学園を卒業して魔女としての地位を確立する。それから功績を上げ、魔法省の信頼を得ること。賛同者を集めることも忘れてはならない。そのためにも将来有望な魔女が揃う学園は最良の環境だ。
 ファルマンが校長であることには変わりはないが、あの時確かに彼はイリーナの宣戦布告に楽しみだと言った。大きな楽しみを前に彼が逃げ出したり邪魔をすることはないだろう。
 そんなファルマンの本性を知っているのはイリーナとライラ、そしてアレンだけだ。

 目まぐるしい毎日を送るイリーナだが、今日は学園の休日だ。久しぶりに自宅に引きこもり、研究室で静かな一時を過ごしている。全てはここから始まったと、懐かしさに浸りたかったのかもしれない。そこにアレンが訪ねてくるのもいつものことだ。

「今日はどうしたんですか、アレン様」

 年頃の男女が密室で二人きり。けれどこの屋敷に二人の仲を咎める者はいない。メイドたちは上客としてアレンを扱い、アレンに至っては実家のように侯爵邸を歩き回る。今日もまた、我が家のようにイリーナの研究室まで歩いて来たはずだ。

「祝いの言葉を伝えていなかったからね。君の編入と、論文の受賞を祝して。おめでとう。満場一致で受賞が決まったそうだね」

「ありがとうございます。でも、これくらい出来なければ校長の座は遠いです」

 イリーナは魔女として認められるため、書き溜めていた論文を発表することにした。若返りの薬については利用される可能性を考慮し秘密にしているが、イリーナの着手していた研究はそれだけではない。魔法具の利用から日常生活に至るまで。新たな薬の生成法に、あげればきりがない。