(――間に合った!)

 イリーナは精霊たちに導かれ、アレンとライラが対峙する森へと駆けつける。アレンを目にした瞬間、無事であることへの喜びから力が抜けそうになった。けれどまだ決着はついていない。精霊たちが教えてくれた話では、ライラはアレンに薬を飲ませようとしていた。

「待って、ライラ!」

 結界は強固な守りとなってアレンを捕らえていた。
 イリーナに気付いたライラはアレンから意識を逸らす。

「リナちゃんだよね? どうしてこんなところに」

 結界越しにアレンの驚愕する顔が見られた。侯爵邸の外に出ただけでなく一人で学園にいるのだから信じられないのも無理はない。
 ライラはイリーナがこの場にいる推測するが、やはり見当違いだ。

「もしかして、あの女から逃げて来た?」

 気遣う発言ではあるけれど、ライラの優しさは歪だ。イリーナは不機嫌そうに唇を引き結ぶ。

「違います」

「じゃあどうして」

「精霊たちが教えてくれました。随分と言いたい放題ですね」

「リナちゃん?」

「そんなに会いたいなら……会わせてあげますよ!」

 イリーナは口にキャンディを放り込む。ライラから見れば幼女のおやつタイムだが、これは元に戻るための薬だ。じわじわと広がる効果にじれったさを感じたイリーナはそれを奥歯で噛み砕く。
 それを呑みこむと、イリーナを中心にポン――と小さな爆発が起こる。真っ白な煙がイリーナを覆い、目を開ければ急成長を遂げていた。
 薬の調合には多数の魔法を掛け合わせている。そのうちの一つにはドレスへ着替えさせるというものも含まれており、イリーナは十七歳の身体でお気に入りのドレスを纏っていた。あの髪飾りを整え、なびく髪を払う。
 煙が晴れ、ライラの目に映ったのは悪役令嬢イリーナの姿だった。

「イリーナ!?」

「望み通り、登校してやったわよっ!」

 拳を握り引き寄せたイリーナは結界を殴った。