「行ってらっしゃい。」

「寝てていいって言ったのに。籍はいれたけど、俺らは....」

「偽装結婚だって言うんですよね。でも、いいんです。私がしたくてしてるの。」


 瀬川の家を出て、1ヶ月が経った。気温もだんだんと高くなり、緑に色づく草木。梅雨を迎えようとしていた。


「んー、じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

 仕事に向かおうとする、スーツ姿の千秋さん。諦めたように、渋々そう言って出かけていく彼の背中に、大きく手を振った。

 そこから、私の1日が始まる。

 これは偽装結婚。そういう固定概念が強すぎて、彼は必要以上に尽くそうとする私を叱る。見送りも、そのうちの一つだった。

 でも、それくらいさせてほしい。ただでさえ、暇なのだから.....


 私は今、無職。

 父の病院で働いていた私は、勘当されると同時に、当たり前のように仕事も失った。

 彼が仕事に行ってしまうと、夜まで一人ぼっちになる。家にいる間、最初のうちは掃除をしたりしていたけど、やることをなくしてボーッとするようになった。


 扉が閉まり、しんと静まり返る廊下でため息をつく。また今日も一人。

 退屈気味に自分の部屋へと入り、ベッドにダイブした。そこは、元々空き部屋だった場所。愛用していたベッドもクッションもないけれど、新たに家具を買い揃えてくれた千秋さんのおかげで、素敵な部屋になった。