「やっと見つけた。」

 そう声を漏らすのは、日暮れのような暗さが辺りを覆う頃。アルバイト先の店――Capoの看板の前に影を落とす姿を見た時だった。

 ハンチング帽を目深(まぶか)にかぶり、大きなマスクで顔を覆う。

 明らかに怪しく見えるその人物は、私の声にビクッと反応すると、その場で固まったように動かなくなった。


 背後からゆっくりと近づいていき、その人物の前に立つ。しかし、私が真っ先に声をかけたのは、一緒にいた2匹の犬だった。

「サム、サニー。元気にしてたかー?」

 私が慣れた手つきで撫で回すと、身を委ねるように目を伏せながら、ゴロゴロと喉を鳴らす。

 懐かしいその感覚に、口元が緩んだ。

「こんな遠いところまで連れてこなくても。」

 呟くようにそう言いながら、ちらりと目だけを上に向け、様子を伺う。しかし、その人物は一度も目を合わせようとはせず、明後日の方向を見ながら、ジッとしている。

 私は耐えきれず立ち上がり、大きく息を吐いた。


「何しに来たんですか。お父さん。」

 久しぶりの、親子の対面だった――。