アーク・ゴルドの魔王アリギュラが勇者に敗れ、魔王城が落とされたあと。リーダーを喪った魔物たちはちりぢりになり、実質的に魔族の世界は壊滅した。

 そうして訪れたのは、人間たちにとって平和な世界。魔族が団結し、人間と並ぶ国を作るという世界の危機を乗り越え、人々は手を取り合って新しい世界を構築する――

 ――はずだった。

「人間は堪らなく愚かだ。私はそれを、嫌というほど思い知った」

 ディルファングを構えるアリギュラと、半魔の姿を取って警戒するメリフェトス。そんな二人をよそに、異世界の勇者カイバーンはぎりりと奥歯を噛みしめた。

「魔族に脅かされない、平和で穏やかな世界。私は、それを手に入れるために闘った。けれども、魔族という共通の敵を失った途端、人間は豹変した。魔族はいなくなったが、代わりに始まったのは人間同士の争いだ。どの王が世界を支配するかを巡り、彼らは醜く殺しあった。……その刃は、私たち一向にも向けられた」

 魔王アリギュラを倒した勇者カイバーン。ひとと天使の両方の地を引き、莫大な力をもつ彼は、まさしく人間の中の英雄だった。

 同時に、すべての人間の上に立たんと血みどろの戦を繰り広げる王たちにとっては、目の上のたんこぶとなってしまった。