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それからのイリアは日中は令嬢としての振る舞い方等の厳しい特訓を、そして夜には周りの事も忘れるくらいの夢中になれる研究を繰り返す毎日を送り、早半月が過ぎた。

最初は慣れない日常に肩で呼吸するようにがむしゃらに齧り付いて過ごしていたが、半月も過ぎれば息を上げることもなく穏やかに生活出来るようになっていた。

令嬢としての立ち振る舞いはエルメナからの視線は未だに鋭いが、これといって指摘を受けることもなく女性らしい身のこなし方を習得していく毎日。

「よろしいです。随分と様になってきましたね」

「お褒めのお言葉、感謝致します」

エルメナの口から褒めるような言葉は一切出てこないが、ペナルティを下されるような言葉は出なくなっていた。

それこそイリアには着々と自信がついていくばかりで、その気持ちが自然と動作に現れているのをエルメナは知っていたのだ。

無駄に褒めることはせずともイリアの伸び代を伸ばす、というエルメナの教育方法は彼女にピッタリだったようだ。

令嬢として出来上がってきたイリアに、次のステップへと踏み出す事を決めたエルメナがとある一冊の本を手渡してきた。

「エルメナ様、これは……?」

イリアには二時間ほどの時間があれば簡単に読み終わってしまうような厚さの本だったが、ペラペラと本を捲る手が自ずと止まる。表紙に戻って表題を見たイリアの表情は固まってしまう。

恋愛指南書と書かれたその文字を頭で処理するのに時間がかかってしまう。