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強い風がイリアを叩いていくが、徐々にその風にも慣れてきたイリアは細く目を開けた。地の底へと続く大きな穴の暗闇はどこまでも続いているように見えた。

何も無い断崖絶壁のこの縦穴に落ちたのだ、それを未だに受け入れることができずにむき出しになった岩肌を横目で見つめていた。この先に待ち受けるものはこの世の人類は誰も答えを導き出せてはいない。その答えをイリアは死を持って得るのだと内心覚悟していた。

だが、どこまでも続く闇の中で見慣れたものがイリアの視界の中に溶け込んできた。

「あれは……アマナケシ?」

森に生えているアマナケシがこの谷底の崖にも生育地を伸ばしていたのだ。ドラゴンの羽ばたく翼によって巻き起こる風により、その胞子達が空中へと舞っている。

それだけではなかった。森に生育している数々の植物が谷底目掛けて伸びていくように、植物が育っていた。

「こんな谷底で植物が生育できる環境があるの?」

森は太陽の光さえも拒むであろう霧が日中は立ち込めてはいるが、生育する環境がまだ少なからず整っている。

だが、こんな場所では水も土も存在しないため上手くは育たないはずだった。森の植物達の生命力が強いことの証明になるのだろうかと、崖から生える植物達を眺めていた。

「ふぁっ!」

いきなり向かい風が吹き付けてきて呼吸するにも難しい状態に襲われたかと思ったが、暗闇の中から突然光が差し込んできた。その光を受けたのと同時に吹き荒れた風は止み、澄んだ空気がイリアの肺の中に入ってきた。