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「イリア!!」

その声がハッキリと聞こえてイリアは我に返った否、夢から覚めて勢いよく飛び起きた。どれだけ手を伸ばしても父の手を掴めるはずがなかったのに、少し虚しい思いをしながらも慌ててベッドから抜け出した。

一呼吸の間を空けて扉が大きく開かれて、ドレスに身を包んだ一人の貴婦人がイリア目掛けて歩いてきた。

「まったく、いつまで寝ているの!今日は大事な日だと昨日の晩食で言ったはずでしょう?!」

「あはは……おはようございます、伯母様」

なんとか自分の失態を流そうとイリアは目の前で眉間にしわを寄せる伯母のエリー・バーリアスに、微笑んで見せた。

案の定、ため息の返答しか返ってこなかったが、この際何でもいい。

侍女が窓を開けて日が昇りきった空から吹き抜けてくる風を取り込むと、イリアのオールドローズ色の寝癖混じりの髪がフワリと舞う。


ふとその風に釣られて窓の外を見れば、太陽はさんさんと降り注ぎ、中々に散歩日和のいい天気だ。脳天にそんな事を考えながらも、随分遅い時間まで寝てしまったと心の中で小さな反省会を開いていると、エリーは侍女達に颯爽と身支度を進めるように指示を出した。

「イリア、今日こそはちゃんと決着をつけてちょうだい」

「善処します」

「はあ〜……その返答もこれで十三回目よ。いい?貴女はバーリアス家の令嬢なの。そこの自覚はしっかりと持ってくれないと困るわ。じゃないとアゼッタにも影響してくるのよ?ちゃんと協力してちょうだい!!」

熱く語るエリーの姿はもう見慣れたもので、すみませんでしたと軽く頭を下げて謝罪する。

イリア自身、頑張って努力してはいるもののそれが結果として返ってこないのはどうしようもない。だが、それを理解できる程の余裕がエリーには無くなってきているのだ。