集中力というものはイリアの中には無限に続くもので、窓の外はもう日が傾き家の中には明かりが入ってこなくなってきていた。蝋燭に火を灯そうと周囲を手探りするが、ここは屋敷の中の自室ではないことに今更気づき、イリアはようやく我に返った。

「もうこんなに日が傾いてる……!急いで帰らなきゃ」

慌てて鞄の中に手持ちの本と、見つけたばかりの摩訶不思議の内容が書かれた書物を詰め込んでイリアは家路を急いだ。高台にあるこの別荘からは街全体を見下ろすことが出来て、揺れる街の明かりに目を奪われた。

どんなに輝かしい宝石やドレスでもこの街の輝きには敵うものかと、イリアはため息を零した。

「あのガス灯の明かりの煌めき……本当に発明した方は素晴らしいものをこの世に生み出したものね」

明かりにうっとりしていたというよりも、それを生み出した人物に惚れ惚れしていると言っても過言ではないが、誰もイリアのその思考回路を止めることは出来ない。

明かりの中心へと向かうように街へと戻り、見張り達にバレないように屋敷の中へと潜り込んだイリアは颯爽と自室へと辿り着いた。

窓の外は薄らと月が浮かび上がり、淡い明かりで静かに街を照らしている。なんとか時間には間に合ったと思いつつも廊下からは夕食の香りが漂い、声がかかる前に急いで表に出ていいようなドレスに着替えた。

家族団欒で食事を囲む……それはイリアにとって幸せな時間の一つではあるが、今日の夕食は今朝のこともあって気が重たい。鏡の前で作り笑いの練習をしていると、侍女の一人がイリアを呼びに来た。渋々ダイニングルームへと向かうが、そこには伯父のナリダムの姿しか見当たらなかった。

運ばれる料理達に背を向けるように、バルコニーへと続く大きな窓ガラスの前で月が浮かぶ夜空を見上げていた。

「伯父様」

自分の席へと着く前にナリダムに声を掛けると、ぼーっとしていたのか数秒間を開けて返事が返ってきた。

「ああ、イリア。来ていたのか。すまないね、今日はエリーは調子が悪いからと自室で休息を取っているよ」

その体調が悪くなってしまったのは自分のせいだとイリアは分かりきっていて、すみませんと頭を下げた。

エリーの看病をすべくアゼッタも付きっきりということも想像できた。家族の一員としてちゃんとしようと試みてはいるものの、実際の所は迷惑しか掛けていない自分の存在に落胆するしかない。