ケータイ小説 野いちご

Far away ~いつまでも、君を・・・~


次の日の放課後、彩は少し早めに道場に入ると、何本か弓を射った。選手選考日まで、あとわずか。それだけに、少しでも今は弓に触れていたかった。


「早いね。」


そんな声が掛かり、振り返ると


「主将。」


由理佳の姿が、そこにあった。


「遥は?」


「もうすぐ来ると思います。」


「親友を置いてきぼりにして来たの?」


「日直なんです、あの子。」


「そっか。」


そんなことを話しながら、由理佳は彩と肩を並べた。


「昨日、二階にガツンと言ったらしいね。」


「はい。」


「やっぱり気になる?アイツのこと。」


「ちょっと、止めて下さい。」


からかうように言う由理佳に、彩は本当に嫌そうな顔をする。


「なんであの子が、私にあんなにご執心なのか、さっぱりわかりませんけど、本当に無理ですから。」


そう真面目な顔で訴えるように言う彩。


「わかった、わかった。」


と笑いながら答えた由理佳に


「とにかく私、弓道にちゃんと向き合わないアイツ見てると、ムカムカして来るんで。」


と吐き捨てるように、彩は言う。


「私だって、弓道部に入ったキッカケは、部活見学の時に見た主将、由理佳さんの姿に憧れたからです。」


その言葉に由理佳は、少しくすぐったそうな笑みを浮かべる。


「ある意味、単純だったし、弓道、全力で頑張るぞって燃えて入ったわけでもありません。だからキッカケのことで、アイツにとにかく言う資格なんて私にはない。」


「・・・。」


「でも私は、一所懸命に弓道に向き合った。最初のうちは、由理佳さんの姿を見て、見よう見まねでやってただけでしたけど、でも、やってるうちにドンドン弓道の魅力に取り憑かれていって・・・。でもあの子は、部活を私に近づく手段としか思ってなくて、ハナから弓道なんかどうでもいいと思ってる。それがとにかく腹立たしいんです。」


そう言って、まっすぐに自分を見つめる彩に


「そっか、そうだよね。彩は・・・頑張ったもんね。斗真(とうま)もいつも褒めてた。」


由理佳は優しい笑顔で言った。


「ところで、彩はどう思う。」


「えっ?」


「今日、二階、来ると思う?」


「さぁ?興味ありませんけど、多分来ないと思いますよ。昨日、あれだけはっきり言ってやったし。」


そう突き放したように答えた彩に


「けど、もし来たら、まだ見込みあるってことだよね。」


と由理佳。


「まさか・・・。」


彩がそう答えかけた時


「失礼します!」


と入って来た一人の男子。その顔を見て、驚く彩の横で


「オッス。」


そう挨拶を返した由理佳は、ニコリと彩に向かって微笑んだ。

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