「…おはよう」

目を覚ませば目の前に彼の顔。

驚かせようとでも思ったのだろうか。

残念だが僕は耐性があるので相変わらず、
無表情のまま何も反応しない。

ことり、と、ベッドの隣にある小さな机にご飯と思わしきトレーを置く。

「これ食べれる?」

昨日とは全く違う雰囲気で話しかける彼。

しかし昨日のこともあり、
僕は彼を見もせず毛布をかぶる。

まぁ流石にこれで反省してもらわないと困る、
と言える程僕は偉くはないけれど。

彼も諦めたようで近くにある椅子に腰を下ろす。

そのまま何故か話し始めた。

「僕さぁ、人間って嫌いなんだよね」

ぼそり、と言えるぐらいの小さな声。

僕は彼の真意を確かめたくて、
毛布から顔を覗かせる。

「昔さ、虐待されてたんだ、僕」

さらりと言ったその言葉は悲しい真実だった。

彼はそのまま続ける。

「だから、仲間を運んでる君を見た時、
殺さなきゃやられるって思ったんだよね」

あぁ、僕の推測は合っていたのか。

ぴちゃんっ

水の落ちる音がした。

彼を見上げればぽたり、
と彼の目から涙が流れていた。

いきなり泣かれたもので顔には出ないものの、
本心は焦りと動揺でいっぱいだった。

「あ、ごめん、急にこんなこと言われても
困るよね」

彼は椅子から立ち上がって出て行こうとする。

僕は別に引き止めようとなんか思わなかった。

ただ、勝手に口から出ただけなんだ。

「…人間っていうのは、臆病なんです」

彼はぽかん、とした表情をして
こっちを振り返る。

「異形を恐れるのは無知ゆえ…だから、貴方がそうなってしまうのも無理はないんです」

何故かつらつらと言葉が出てくる。

いつもなら何か考えて言っているのに。

「習慣っていうのは一度染み付くと中々離れないものです、だからその行動は間違ってない」

僕が言ったとは思えないほどの言葉だった。

なんでこんなことを言ったのかは自分でもわからない。

ただ、過去に囚われてはいけないと思った。

多分そう。

別に泣いてるところを見たくない。

そんな事を思ったわけじゃない。

「…すみません、出過ぎた真似をしました」

そのまま、僕は小声で

「忘れてください」

そう呟いた。