「純也坊っちゃん! お元気そうで何よりです。――あ、今こちらに相川愛美さんがいらしてるんですよ。ちょっと代わりますね」

 多恵さんは大はしゃぎで答えたあと、キッチンで手伝いをしていた愛美を手招きした。

「愛美ちゃん、純也坊っちゃんから。ハイ」

 リビングで彼女から受話器を受け取った愛美は、嬉しさと緊張半々で電話に出た。

「……も、もしもし。愛美です。あの、お久しぶりです」

 何せ、彼と言葉を交わすのは五月以来のことなんだから。

『うん、久しぶり。元気そうだね。そっちでの夏休みは楽しい?』

「はい! すごく楽しいし、色々と勉強になってます。千藤さんも多恵さんもよくして下さってるし」

 電話に出るまでは緊張していたのに、彼の声を聞いた途端にそれはすぐに(ほぐ)れてしまう。

『そっか、それはよかった。――あのさ、愛美ちゃん。僕は今年の夏も仕事が立て込んでてね。悪いけどそっちには行けそうもないんだ。そう多恵さんに伝えてもらえるかな? 申し訳ないんだけど』

「……はい、お忙しいんじゃ仕方ないですよね。分かりました。伝えておきます。――もう一度、多恵さんに代わりましょうか?」

 すぐ(そば)で、多恵さんがまだ話したそうにソワソワと待っている。

『うん、そうしてもらえる? 悪いね』

「いえいえ。――多恵さん、純也さんがもう一度多恵さんに代わってほしいそうです」

 愛美は受話器の通話口を押さえ、多恵さんに受話器を差し出したのだった。