――六月。横浜もすっかり梅雨(つゆ)入りしており、茗倫女子大付属の制服も夏服――リボン付きの白い半袖ブラウスにグレーのジャンパースカート――へと衣替えした。

「はい、愛美。じっとして、動かないで!」

 ここは〈双葉寮〉の二〇七号室。さやかと珠莉の部屋である。
 放課後のひととき、長い黒髪が自慢(?)の愛美は、さやかの手によってそのロングヘアーをいじられ……もといアレンジされていた。

「――はい、できた! 愛美、鏡見てみなよ。すごく可愛くなったから」

「えっ、どれどれ? ……わあ、ホントだ!」

 さやかから差し出されたスタンドミラーを覗き込んだ愛美は、歓声を上げた。
 鏡に写っている愛美の髪形は、プロの美容師がやってくれるような編み込みが入った可愛いヘアスタイルになっている。TVの中のアイドルや女優・モデルなどがよくしているのを、愛美も見ていた。

「スゴ~い、さやかちゃん! 手先、器用なんだね。もしかして美容師さん目指してるの?」

「ううん、そんなんじゃないんだけどさ。ウチ、小さい妹がいてね。中学時代はよく妹の髪いじってたんだ」

 さやかの口から、父親以外の家族の話題が出たのは初めてだ。 

「妹さん? 今いくつ?」

「今年で五歳。この春から幼稚園に通ってるよ」

「へえ……。可愛いだろうね」

 愛美はそう言って、山梨にある〈わかば園〉の幼い弟妹たちに思いを()せた。
 施設を出るまで、愛美がずっと世話してきた可愛い弟妹たち。みんな元気かな? 今ごろみんなどうしてるんだろう――?