桜色に染まった、薄く形のいい唇。

 襟の詰まった清楚な青いワンピースによく映える金色の長い髪。
 アーシェリアスが、クールビューティーな面差しのその人と並んで立っていると、エヴァンは言った。

「さすがアイザック様! 隣にいる本物の女性が霞むほどの美しさですね!」

 宿の一室に響き渡るほど、でかい声で褒めるエヴァンにきっと悪気はない。

 しかし、比べられたアーシェリアスは満面の笑みで言った。

「わかります~。でもエヴァンさん、もうちょっと思いやりがほしいです」

「はっはっはっ、すまんな」

 本当に悪いと思ってはいない軽い謝罪だが、確かに女装したザックは女の自分より美しい。


 今日はいよいよ斬新料理コンテストだ。

 アーシェリアスは朝から料理の下準備に追われ、ノアはザックとエヴァンの支度にてんてこ舞い。

 盗まれたレシピ本については、ザックの命を受け、ジェイミーが質屋など目ぼしい場所を当たっている。

 もちろん、アーシェリアスたちもコンテスト準備の合間に、自分たちの足で捜索はしていたが、今のところ手がかりは見つかっていない。

 とりあえず、コンテストが終わり次第、今後どうするかを相談する話になっているが、まずは優勝することに集中だ。

 ちなみに、キスしたことについては、なるべくザックのことを変に意識しないようにアーシェリアスは努めていた。

 その甲斐あって、翌日こそ互いに少しのぎこちなさは見えたが、皆の中で話すうちにそれも薄れゆき今に至る。