春は、別れの季節。
 同時に、出会いの季節でもあるけれど、私には何ひとつ関係ない。

「…………また、あの夢」

 ピピピピ、ピピピピ。
 鳴り響くアラームを止め、携帯の画面をじとりと睨む。通知はメールが一件。相手は分かってる。迷惑メールだ。だって私の携帯には祖母の番号しか登録されていない。そんな、唯一の身内である祖母は、メールが出来ない。

「…………三年、か、」

 早いな。
 ぽつりとこぼして、のそりと身体を起こす。
 三年。それは手の中にある携帯から彼の連絡先が消えて経過した年数だ。もう、と思う時もある。けれど、まだ、と思う時もある。
 記憶のないところまで遡れば、私と彼の出逢いは、病院の新生児ベッドだったらしい。母親達のベッドが隣同士で、産まれたばかりの私と彼が寝転がされていたベッドも隣同士だった。それだけならまぁ、そこで終わったのだろうけれど。良いのか、悪いのか、住んでる場所も、隣同士だった。
 記憶にある最初の出逢いは、私が五歳になるお誕生日会。保育園は別の場所だったみたいだけど、赤ん坊の頃はわりと頻繁に会っていたみたい。記憶は朧気ではっきりしないから何とも言えないのだけれど、その次のはっきりとした記憶は、小学校に入学する日の前日、私の母のお葬式で、だったはずだ。
 本当はその時点で、私は理解していなくちゃいけなかった。父が若い女に入れ込んで家族を捨てた時に、父が出て行ったせいで病んでしまった母が自殺した時に、ご近所でひそひそと噂されている私と祖母をお隣さんだった彼と彼の家族が気遣ってくれた時に、彼が「ぼくはずっと、そばにいるからね」と泣いてばかりの私を抱きしめてくれた時に、気付いて、理解しておくべきだった。
 だけど、出来なかった。「ほんと? やくそくだよ」何気なく返したその言葉が相手にどれほどの重荷を背負わせることになるのか、たった六年しか生きていなかった私には、自分のことで精一杯だったあの頃の私には、先を見据えることが出来なかった。中学二年の時、「付き合うとか、そういうの、私は、君以外じゃ、想像も出来ないよ」と思ったことをありのまま吐き出したその言葉を相手がどう受け取るのか、当たり前ではない日常を日常だと思っていたかった(・・・・・)異常な私には、それを飲み込むことが出来なかった。
 そのせいで彼は、ずっと、私という存在に縛られたままだったのだから、彼からすれば、三年という年数はまだたったの(・・・・)三年、になるのだろう。