「兄ちゃん……、やっぱりやめよ。おれ、できない。おれ…こわい」
「大丈夫。すげぇよ。すげぇかわいい」
 虎のまつ毛にマスカラを塗っている五十嵐も、ため息をついた。
「ほんと、嫉妬しちゃうよ。あたし、中学んとき、も、ニキビでブツブツでさ、すっごいイジメられたんだよ。イチゴ女とか――…」
「うそ。だって沙織さん、すごくきれいだよ?」
「別れたカレシがね、皮膚科の医者だったの。肌トラブルなんて病気だと思って真剣に治療しちゃえば治るんだよーって。ゲスだったけど――そこは感謝しないと、ね」
「…………」「…………」
 言葉をなくして顔を見合わせたおれと町田の気持ちなんて、きっと五十嵐にはわかるまい。
 The 女子。
 男は2種類。
 過去の男と、今の男。
「沙織さん……」
 虎が痛々し気に眉をゆがめて五十嵐を見上げると、五十嵐はサムズアップで笑った。
「いいの。過去、過去。女子の正義は『かわいい』だよ、とんちゃん」
「…………」「…………」
 おれと町田が見合わせた目をそらしたのは言うまでもない。

 かわいいは正義。
 正義は強し。