第5話




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「恵子ママ!定年おめでと~!」


「はいはいどうせ中身はうまい棒だろぉ?」


「いやいや!ちゃんと老舗和菓子屋さんでどら焼き買ってきた!」



3月31日。

経理部のフロアを尋ねて、

入社以来ずっとお世話になっていた“恵子ママ”こと経理部のお局、恵子さんへ紙袋を手渡す。


「ママ、俺の担当外れちゃうの?」


「そうだね~。1年は雇用継続で働かせてもらえるから、新人育ててアタシはお役御免だよ。」


「じゃあ・・・・・。」


「うん?」


「俺の“うまい棒”もちゃんと引き継いどいてよね!」


「アハハ。シンジ。
アタシの温情も今日までだよ。

しっかりお金貯めて、
経費は正しく使いなさい。」


「え~!?」



神奈川一の大手電子機器メーカー
[参瀬商 株式会社]


ラッキー&ラッキーでここから内定を貰えて、営業部として働き出して間もなく丸6年。


最初は全くうまくいかずに全然お客さん取れなくて、

“万年最下位男”として上司や先輩から叱られ続け、

その度に恵子ママに励まされていた。


とにかく営業は“トーク力”が武器。


だからTSUTAYAに行って“人志松本のすべらない話”を全巻レンタルして、

毎週火曜日は“踊るさんま御殿”を毎週録画して、

元々“アメーーク”は見てたけど“見方”を変えて、


お笑い芸人のトーク構成力を学んで、
ちょっとずつ仕事にも生かして・・




だからTSUTAYAに行って“トリビアの泉”を全巻レンタルして、

毎週月曜日は“Qさま”を毎週録画して、

元々“マツコの知らない世界”は見てたけど“見方”を変えて、


ジャンル問わず雑学を頭に叩き込んで、
使えそうな引き出しを増やして・・


ちょっとずつ・・ちょっとずつ・・
今では営業部“No.2”までのし上がれた。


その間ずっと俺を応援し続けてくれた恵子ママがこの春定年を迎える・・・


・・・寂しすぎてしょうがない(T^T)