荘厳な装飾に包まれたアルボス帝国の宮殿内では新皇帝即位を祝して豪華な宴が開かれていた。
 他国の王族や大使、国内の貴族など、招待された来賓は和やかな雰囲気で歓談している。しかし、少女の悲鳴と程なくして何かが零れる音が辺りに響き渡り、その平和な空気を一変させた。


 場は一気に凍りついてしまった。何故なら本日の主役、アルボス帝国皇帝・イザークの真っ白な正装にトマトジュースが零されていたからだ。

 広い範囲にできた染みは返り血を彷彿とさせ、紫の瞳にさらさらとした黒髪、彫りの深い整った精悍な顔立ちを、より凶悪なものへと引き立てた。

「申し訳ございませんっ」

 彼の正面には平謝りに謝る少女の姿があった。他の来賓のような美しいドレスや華美な装飾品はなく、身に纏っているのはシンプルな白の祭服で頭にはヴェール状の頭巾を被っている。