……大切な事を言い忘れていた。

 塚本くんにニセ彼女の件がバレたって事、彰くんに言ってない。

 虹祭り以降なんとなく気まずくなって、来たメールにもそっけなく返してしまったりどことなく避けるようにしていたけれど……これはさすがに言わなければならないだろう。塚本くんが皆に話してしまう可能性だってあるし、まぁ彼に限ってそんな事はしないと思うけれど、念には念を入れておくべきだろう。

 ……ていうか、正直言って私がここまで気にする必要ってなくない? だって、ニセ彼女のことがバレて困るのは彰くんだけだ。私という役に立ってるのか立ってないのかよく分からない〝女子抑止力〟を失って、告白の断りに苦労する日常に戻る。ただ、それだけなのに……。

 スマホを手に取り、暫く画面とにらめっこを続ける。真っ黒い画面にはしかめっ面の自分の顔が映っているだけだ。

 悩んだ末、ようやく覚悟を決めて電話をしようとアドレス帳を開いたのはいいものの、なんだか妙に緊張してしまってなかなか次の画面に進めない。……どうしたんだ私、しっかりしなさい。

 随分と無駄な時間をかけながは、私は通話のマークをタップした。

 耳元で鳴るコール音が緊張感を高める。

「はい」
「あっ、えっと、あの、成瀬です、けど!」
「うん。画面に名前出てたからちゃんとわかるよ」

 おっと、出だしは順調に失敗だ。動揺しすぎな自分が恥ずかしくなる。彰くんは電話越しのくぐもった声でクスクスと笑っていた。

「栞里から電話なんて珍しいね。何かあった?」
「……うん。話すの忘れてたんだけどね、実はこの前塚本くんに私達が本当は付き合ってないって事がバレちゃったの。最初から怪しいって思ってたみたいだけど、直接聞かれて答えた。……ごめん」

 彰くんは冷静だった。

「……そっか。塚本はなんて?」
「特に何も。ただ、彰くんには言っておいた方が良いかと思って」

 もうすぐ学校も始まるし、言っておかないと不都合が出てくるかもしれない。