「ねえ、ロイ……」
そういえば、まだ詳しい話を聞いていなかった。
アルフレッドは『道中で』、などと言っていたが。
もしかしたら、疲れていたジェイダを気遣ってくれた……のかもしれない。
「アルフレッド様! アルバート様!! 」
尋ねようとした声を遮り、初老の男性が凄い勢いで近づいて来た。
(誰だろう。じいやかな? でも、アルバートって? )
辺りを見回したが、自分達の他に誰もいない。
「……デレク」
唸るように声を発したのは、隣にいたロイだった。
「お二方とも、一体何をお考えなのですか!? 兄弟揃って外泊など。もしものことがあれば、どうなさるおつもりか」
デレクと呼ばれた男は、目立って仕方ないはずのジェイダを無視できるほど、心配で眠れぬ夜を過ごしたようだ。
「……公務といえば、公務だ。多分」
アルフレッドの言う通り、クルルに来たのは遊びでも何でもないから、そう言えないこともないだろうか。
だからこそ、王子二人が護衛もつけずにいたのは言語道断だ。
何と言っても、よりによってクルルに、だ。
最悪、二人の身に何かあれば、この国はどうなる。
それほどまでに、二つの国は危機的な状況なのか。それに――。
「兄さんに同意。それと――」
アルバート。
聞き慣れないその名前は、当然彼を指すのだ。
「その名を呼ぶな。……それこそ、公務でもないなら」
ロイの本名。
隣国の第二王子の名。
ジェイダは無知な自分を恥じた。
「どうでもいいが、そろそろ気づいてやれ。そいつが目に入らんとは、お前もどれだけロイが可愛いんだ」
「……やめてよ」
やっと出された助け舟に、チラとデレクを見る。
たった今気がついたとばかりに、彼も目をまん丸にしてジェイダを見ていた。
「……この娘は……! 」
「うん。クルルの子だよ。可愛いでしょ」
二人以外のトスティータ人の目に晒され、少しだけ体が震えた。
「はぁ、そうかもしれませんが……」
「並だろう」
そんな反応を示したことが勿体ないくらい、失礼な発言である。
アルフレッドを睨むと、彼はしれっと目を逸らした。
「アルフレッド様の仰る通り……いえ、そんなことはどうでもいいのです!! 」
(……正直な人ね)