思えばあたしが松本くんのことなにも知らないのは当然のことだった。


松本くん自身あんな風だし、どれだけ近づこうとしても無理だったんだ。


「どうしたの琴江、なんか怒ってる?」


放課後になり、あたしは机の上に乗せたカバンにどんどん教科書を詰めて行っていた。


「別に、なんでもないよ」


泉にそう言ってすぐに立ちあがる。


「ちょっと、もう帰るの?」


「図書室によってから帰るの。じゃあね泉、また明日」


早口に言い、足早に教室を出る。


昇降口へと向かっている生徒たちの流れに逆らって、3階の図書室へ向かう。


昼間松本くんからあんな風に言われてもあたしの気持ちに変化はなかった。


これほど強く誰かと一緒にいたいと思ったことは初めての経験なんだ。


今度は自分から手放したりなんかしない。


松本くんにこっぴどく振られでもしたら諦めるけれど、そうじゃないならあきらめない。


図書室に到着したあたしはすぐにパソコンの使用許可をもらった。