私は……何か大事なことを思い出そうとしている。


夕方の屋上から校舎の中に入って、射し込む夕陽を背に階段を考えごとをしながら下りようとして、足先に何かが当たるのを感じて我に返った。


「いてっ! って……藤井? なんでこんなところに」


どうやら階段に座っていた男子生徒を蹴ってしまったようだ。


この男子生徒の名前は……北島瑛二(きたじまえいじ)


「北島くん。あなたの方こそどうしてこんなところに」


謝るより先に、その疑問が口をついて出た。


「なんだよ。お互い様ってか? てかお前、パンツ丸見えだぞ。顔に似合わずえぐいの穿いてんだな」


笑いながらそう言われて、私は慌ててスカートを押さえて北島くんの後頭部を蹴った。


「あいてっ! 二度も蹴るなよ! お前が立ってたから見えただけだろ!?」


まあそうなんだけど、なにもわざわざ言う必要はないじゃない。


「立ってなきゃ、どうやって歩けって言うのよ。まさか這って進めって言わないでしょうね」


「はは。なんだよ藤井、お前ちょっと面白いな。暇してたんだよ、ちょっとここ座れよ。少し話そうぜ」


北島くんは自分の横をバンバンと叩いて、ニカッと笑って見せた。