【松原麗華side】
ーピッ…ピッ…ピッ…
…聞きなれた機械音。
腕につけられてる点滴。
そばにある心電図。
もう見なれた光景だ。
「松原さん、おはよう。」
そしていつも主治医の顔を見てため息をつきたくなる。
「おはようございます。」
「調子どう?」
「…まあ、そこそこ。」
「仕事行く?」
「当たり前。」
幼い頃から病弱だった私は今では社会人。
ずっとお世話になってるこの病院とは永遠の付き合いになるだろう。
今日は調子もいいから仕事にも支障を来さないだろう。
点滴を外してもらって静かに着替え始める。
本来なら入院していなければならない私のボロボロの身体。
弱った心臓。肺。
薬漬けで蚊にも食われない体。
私の存在価値なんて、仕事でしか認めて貰えないんだ。
「行ってらっしゃい」
「…はい。」
恐らく数えるくらいしか家から仕事に行ったことがない。
それくらい私は病院生活が長い。
なぜなら心疾患、血液病、その他にも沢山の病気と戦っているから。
車に乗り込んでエンジンをかける。
「…ここからなら…10分か。」
しん、と静まり返った車内で私の独り言が空を彷徨う。
職場に向かう途中、コンビニによってご飯を調達。
仕事だって本当は今の会社じゃなくて憧れの夢に向かっていきたかった。
今となってはどうでもいいことだけれど。
今になって夢を追いかけるなんて冷静になると馬鹿馬鹿しい。

「ー松原さん、おはようございます。」
「社長、おはようございます。」
会社に着いて社内を歩いていると行き交う人に挨拶をされる。
自惚れでもなんでも無く、この会社で私の顔、名前を知らない人物はいないだろう。
「資料の確認してもらってもいいですか?」
後ろから声をかけてきたのは同期入社の高瀬くん。
あまり接点もなければ所属している部署も違う。
それなのに頼んでくる訳、その理由は簡単だ。
私が社長直属の秘書だからだ。
加えて総務課の人間でもある。
どの部署からでも頼まれ事をする場合が多い。
「…ここ、もう少し大きい方がいいです。
資料だからわかりやすい方が良いかと。」
「あ、ありがとうございます」
高瀬くんは頭を下げてそそくさと他の社員と話し始める。
「松原さんにチェックしてもらったけど、超こええの。」
「まじ?あの子ほんと笑わないよな。
笑ったところ見たことねえ。」
…また好き放題言われてる。
でも否定できない自分がいる。
なぜなら私は自他共に認める無表情人間だから。