「全く。
 記憶を失くすまで酔っぱらうってどういう事なの?
 私からしたらそれが有り得ないから。」

いきなり、怒ってる彼女は仕事の同僚である名前は結城 加奈(ゆうき かな)ちゃん。
長い茶色の髪を緩く巻いて、お化粧も濃くなく薄くなくで女性の私も見とれてしまうほど綺麗な自慢の同僚。
少しきつめの口調は私が先日職場の納涼会で酔いつぶれその後の記憶を取り戻したく追求しているから。

「だって。加奈がいるから安心しきっちゃったんだよ。
 でもさ、朝起きたら、隣に中川さんがいて驚いたんだよ。」

そう。アパートの方向が同じとの事でタクシーを相乗りした?……らしい。
中川さんとは私たちの勤める病院に出入りしているMRさん。
お薬の情報提供をして下さる製薬会社の方だ。
確か本名は中川 楓(なかかわ かえで)さん。
可愛い名前だけど彼は正真正銘、男性である。


「私は女性よ?
 酔っぱらいの重たい身体を一人で運べるわけないでしょ。
 困ってたら中川さんが方向一緒だから送ってくれるって言うからあんたの鞄漁って鍵を渡したの。
 ご親切にどうもありがとうって誉めてもらいたいわよ。」


混戦状態の現在、お昼休憩中。
彼女のランチであるカルボナーラを綺麗に巻いて食べながら私に毒を吐く。

「だけどさ……」
「何よ?
 起きたら隣で寝ててびっくりしたって?
 別に付き合ってるんだからいいじゃない?」

そのお付き合いまでに至った過程を知りたいの。

「付き合う事になった経緯を知りたいというか。
 酔ってるのにそんな話が出来た事自体が不思議というか……
 とにかく!記憶にないんだよね……
 あはは。」

「笑えないから!!
 そんな大事な事を忘れたって、中川さんが可哀想だわ。
 せっかく、勇気を振り絞って告白したのに。
 私、あんたの彼氏じゃなくて良かったわ。」

どうやら、彼女は中川さん側についたらしい。


「そんなに気になるなら、本人に聞けば良いでしょ?
 記憶にないので教えて下さいって。
 私が聞いた話は、"結城さんありがとう。無事に両想いになりました。昨夜から付き合う事になりました。"ってだけだから。」

怪訝そうな目で加奈を見る。

 「何か語弊でも?
 これを機に千紗も素直になりなさい。
 認めちゃえば気持ちが楽よ。」


そんな事、簡単に言わないでよ。
やっと名前で呼ばれた。
千紗とは私の事。
月島 千紗(つきしま ちさ)が私の本名だ。
ミディアムボムで薄い化粧のせいか幼く見えがちだが、もう立派な大人の27歳。



「私は加奈程の恋愛経験ないから。
 不安しかないの。」
「だったら、今すぐ別れて下さいって言えばいいじゃない?
 言えないでしょ? 
 だって中川さんの事好きだもんね~」


ゴホッゴホッ
飲んでたカフェオレを思わず吹き出しそうになった。

「全く、素直じゃないんだから~
 千紗ちゃん。人を信じるって案外良いことよ!」


喜怒哀楽が激しい。。。