気付かなかったな。。。
あのレストラン以来、楓君の家に来る度に思う。

玄関の、靴箱の上にある少し錆び付いた缶。
あの時のをこんなにも大事にしてくれてるなんて想像もしなかったよ。


「千紗?
 ……
 千紗!どこにいる?」

あれからちぃちゃんから千紗と呼ばれるようになった。
「結城さんも涼もちぃちゃんって呼ぶようになって、あいつらと同じ呼び方は嫌」…らしい。
寝起きの掠れた声で呼ばれた、

「あ!ごめんね!
 すぐ行くー」

休日の朝は寝坊するはずなのに何故か起きちゃうんだよね。
彼のいるベッドにあの日の様にダイブする。

「何してたの?
 起きた時に千紗がいないと不安になる。
 ベッドから出るときは寝てても声掛けてって言ってるの忘れた?」

「ごめんね!
 ちょっと喉が乾いちゃってお水が飲みたかっただけだよ。」   

「それでも声かけて。」

「もう、一緒に住むんだしそこまで心配しないで。ね?」

「じゃ、今日引っ越し来てよ。
 後二週間も別居なんて俺は辛い。
 千紗はどうなの?」

「私だって同じ気持ちだけど、準備や片付けだってあるし引っ越し業者さんの都合だってあるんだよ。
 平日も休日もほとんど楓君の家に帰って来てるんだから別居だなんて言わないで。」


「もうちょっと寝る。」という彼は私をギュッと抱き締めて本当に寝そうになっている。


「ねぇ?
 そろそろ起きなきゃ!
 今日こそ家に行って引っ越しの片付けしないと!
 手伝ってくれる約束、覚えてるでしょ?」





私だって離れられなくなったんだよ。






あなたの暖かいぬくもりを知ってしまったから。









end