ケータイ小説 野いちご

恋をしたのは

高校一年生
夏、恋をした

 その翌日、嫌な予兆があった。
 ……さて、どうしようかな。
 靴箱の前で立ち止まってしばらく考え込む。
 あ、そうだ!!
 バンド練習の時にアオイくん家で履いてる上履きを持っているのに気づいてそれに履き替えた。
 何だかなあ……、ちょっと気分が重い。

「おはよ、片山さん」

 教室に入ると加瀬くんがいて、それがいつも通りの笑顔なのでホッとする。

「おはよ、海音ちゃん」

 由衣ちゃんや凜ちゃんも私の肩をポンっと叩いて自分の席についていく。
 ああ、変わらぬ風景に心から感謝したい。
 ほんのちょっとの違和感もきっと私の気のせい、だ。
 そう思って机の中に手を入れて置き勉したはずの教科書を取り出した。
 あれ? 現代文の教科書、置いて行ったはずなのに?
 家にもなかった、と思うけれど私の勘違いかな?
 もう一度家で探してみよう。
 う~ん……。

「どしたん?」

 加瀬くんも私の困っている様子に気づいたのだろう、こちらを見ていて。

「教科書忘れちゃったみたい、周に借りてくるね」

 そう告げてA組へ、覗いた先に周はいて声をかけるタイミングを見計らっていると。

「海音ちゃん、おはよ」

 ポンと肩を叩かれて振り向くとアオイくんがいた。

「アオイくん、おはよ! あのっ、A組って今日現代文あるかな?」
「あるよ、もしかして忘れた?」
「うん、周に貸してもらおうかなと思って」
「オレでもいいよ、持ってくるから待ってて」
「ありがとう!」

 アオイくんが机に教科書を取りに行ってるほんのちょっとの間のこと。

「……ないない、釣り合わない」
「つうか アオイくううん、おはよおお とかめちゃくちゃ媚びてない?」
「似過ぎ! 笑わせないで」

 ……え? 何?!
 クスクスと聞こえるか聞こえないかの声。
 
 声のする方向、A組の目立つグループの女子が固まってチラチラと私を見て笑っていた。
 アオイくんが教科書を手にこっちに戻ってくると。

「あ、ねえねえアオイ!! 夏休みのことなんだけどさ」

 そう声をかけてくる彼女たちに笑顔で。

「ちょっと待ってね! 海音ちゃん、ハイどうぞ。うちのクラス五時限目だからそれまでに返してくれればいいからね」
「ありがとう、借りるね!」

 笑顔のアオイくんから教科書受け取ると逃げるように自分のクラスに戻る。
 血が逆流するような感じで顔は火照るのに。
 反対に手指が冷たくなる。
 心臓がドックンドックンとうるさくて耳の中まで音がする。

 やだ、何かやだ、どうしよう、この感じ。
 思い出したくないものが心の底から湧き出てくるような。
 不安で、とっても不安で。

「片山さん、大丈夫?」
「え?」
「顔色悪くない?」

 心配そうに私を覗き込んでいる加瀬くんに、大丈夫、といつものように笑って首を横に振った。
 自分のことだ、加瀬くんに心配はかけたくない。
 何でだろう? 私何かしちゃったのかな?
 あの子たちから感じた悪意はきっとアオイくんとのことだ。
 アオイくんモテるから、私と話してたのが気に入らなかったのかな?
 ……、やだな。もうあんなのはやだ、な。
 授業中、終始俯いたままで唇をぎゅっと噛みしめる。
 とにかくアオイくんにはもう学校で話しかけちゃいけないんだ、きっと。

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